―変身スプレー交換生活記―

ジャリテンが持ってきた宇宙の品物。スプレーを吹きかけてそのとき思い描いた物に

変身できるという変身スプレーにより、学校はちょっとした騒ぎが起こった。

ジャリテンから取り上げたスプレーを悪用した諸星が、教室へ戻ってきたとき

怒ったラムが電撃を食らわせたのだった。

変身スプレーが爆発した後、教室には空を飛ぶ諸星、刀を持った諸星、ふてくされている面堂、

どこか、かわいらしい大量の面堂、

俺が」と叫ぶしのぶ、

あたしが」と叫ぶ竜之介、

狸の置物、たいやき、半裸の女、トランプカードなど雑多の物が出現した。

そしてこのトラブルの中心が、またしても諸星あたるであることを気づくのに

クラスメートたちは、それほど時間はかからなかった。

クラスメート「諸星きさま、またしてもおのれが原因なのか?」

迫り来る巨大たいやき、いや実際はクラスメートではあるが、

少し取れかかっているコーンの部分、焦げた部分がリアルでうまそうだ。

しかし、それが両腕いっぱいに広げても抱えられない巨大なたいやきだと、はっきり言って怖い。

外見諸星の面堂「よるな、外見は諸星だが僕は終太郎だ」

外見諸星のラム「ダーリンは、こっちのふてくされている終太郎の方だっちゃ」

外見しのぶの竜之介「空飛んでるおめえがラムか?」

しのぶの姿の竜之介。不自然極まりない言葉使いである。

竜之介の姿をしたしのぶが外見面堂、中身あたるにくってかかる。

外見竜之介のしのぶ「どうしてくれるのよ、早く元に戻して!!」

外見面堂の諸星「いやぁ俺もどうしたら良いのかわからんのだ。

わからんなりに
2人で一緒に考えよう竜ちゃん、いや、しのぶ!」

「海がああぁぁぁあああ
      好きいいぃぃぃ〜!!!」
唐突に竜之介のオヤジとともに、海の荒波が教室内になだれ込み、

竜之介姿のしのぶに、対し力いっぱいを抱きしめ、

「貴様男の癖に女言葉を使うとは父は悲しい!」などと、わめいている。

いやああぁぁ、男なんて〜」竜之介の姿のしのぶがパニックになり机をふりまわす。

机といっしょに窓の外へぶっ飛ばされるオヤジ。

何の解決にもならないが
机にしがみついたままである。

キャーキャー言いながら逃げる中身女生徒の面堂。

側から見ると
違和感大爆発である。

外見諸星のラム「落ち着くっちゃ、しのぶ!!」

あたるの姿をしたラムがまたしても電撃を放った。

ガラスが飛び散り、机が粉々になり教室は半壊する。

そこへ温泉マークが騒ぎを聞いて教室へ入ってくる。

温泉マーク「何やっとんじゃいおのれらは?」

ほこりと水が引いた教室には、半死半生ながら元に戻った生徒たちがいた。

しかし3人だけ戻らない者達がいた。

ラム、あたる、面堂である。

温泉マーク「何で諸星が2人もいるのだ?それに面堂さっきのことまだ謝ってないだろう。」

外見諸星のラム「ちがうちゃ、終太郎は何もしてないちゃよ」

温泉マーク「なんだ?諸星気持ち悪い、ラムの声真似をしてなにしとるんじゃ?」

外見諸星のラム「実は…」

変身スプレーで、あたるが終太郎に化けてガールハント、その他のいたずらをしていたこと、

爆発により生徒全員が、先ほどまで違う物に変身していて

それでパニックになったことを説明した。

温泉マーク「なるほどわかった…しかし3人が元に戻らないのはどうしてだ?」

外見諸星のラム「多分爆発の中心にいたからだと思うっちゃ、

中心点はスプレーの成分がより濃く降りかかって、

他のみんなは離れていたから、スプレー成分が薄く、変身効果も短時間ですんだと思うっちゃ」

外見諸星の面堂「いったいこの効果はどのくらいまで続くのでしょう?」

外見諸星のラム「さぁ…うちもよくわからないっちゃ…そんな長時間ではないと思うけど…」

外見面堂の諸星「なんだ、じゃあ、たいしたことないな♪」

外見諸星の面堂「何をのんきなことを、貴様が
全ての元凶のくせしおって!!」

どこからか刀を取り出す。いつもながらあざやかな手並みだ。

温泉マーク「まぁ待て面堂。どうせ元に戻るのならもうほっとけ、もうすぐ昼休みも終わるぞ、

みんな机を片付けて次の授業に備えろ」

みんなのろのろと動き出し、倒れた机を元に戻し、散らばったガラス片や、ごみを片付ける。

外見面堂の諸星「次の授業ってなんだっけ?」

クラスメートの白井コースケが答える。

コースケ「英語だよ。」

外見面堂の諸星「そっか、サンキュー」

コースケは一瞬、あたると面堂が入れ替わっていることを忘れて答えたので、

面堂が気安く話しかけてきたことに、

奇妙な違和感を覚えた。

頭では入れ替わっていることを理解しているのに…。

あれだけの騒ぎがあったのに、いつものように授業が始まる。

しかし…クラスメートにとって、いつもの見慣れた風景が少し違うだけで

多大な違和感を感じさせるということが、よくわかる出来事が始まった。

授業中、普段諸星あたるという人間は、不真面目極まりないのが普通なのである。

落書きしてたり、友達と小声でしゃべってるのはもちろんのこと、スケベな本を隠し読みしたり、

たまにまじめだと思えば次の瞬間には、寝てたりしている。

一方、性格は諸星とほとんどいっしょ等と、不名誉的なことを言われる面堂は

実のところ授業態度は、諸星とはまったく正反対で

早弁をしたり、おしゃべりをしたり、寝ることもない。

そして諸星が2人いて、どちらもまじめに授業を受けている。

特にその一方の諸星は、襟元まできちんと閉じて、

背筋を伸ばし、授業内容を熱心にノートに書き写している。

一方、中身諸星の面堂は前髪が少し落ちて、詰襟部分を開けて早くも少し優等生が崩れかけている。

温泉マーク「よし次、面堂読んでみろ」

温泉マークはつい中身が入れ替わっていることをわすれて、面堂の方へ向いて英語文章を

読むように指示した。

温泉マークの言葉を受けて別の場所から諸星が立ち上がり、文章を滑らかな発音で読み始める。

外見諸星の面堂「It was a snowy country when escaped from the long tunnel of the border.

The bottom of night Became white. The train stopped at the signal cabin.」

(川端康成・雪国英訳)

(国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなり、信号所に汽車が止まった。)

一瞬、諸星本人がしゃべっているのかと錯覚するクラスメート。

頭ではそれが中身面堂だとわかってはいるが…何か感覚が追いついていかない。

温泉マーク「よ…よーし面堂、もういいぞ。次は…」

温泉マークが次の文章を読ませる生徒を選ぼうとしたとき、ポンという軽快な音をさせて

2人いるうちの諸星の一人がラムの姿へと戻った。

外見面堂の諸星「お…元に戻ったなラム。そうすると、もうすぐしたら俺の変身も解けるな」

外見諸星の面堂「あぁラムさん、やっと美しい姿に戻れましたね。僕も早く美しい姿に戻りたいです。」

諸星が「
」等としゃべり、面堂が「」としゃべっているのは、はっきり言ってこそばゆい感覚がする。

クラスメートは早く2人が元に戻らないかと本気で思った。

そんなこんなで授業は比較的穏やかに進み、次の授業は化学の時間だった。

白の白衣を上に着て、教室を移動する。

外見諸星の面堂(そういえば当番だった…ビーカーとか机に並べる物があったな…)

理科室へ教科書を置いた後、準備室へ向かい班ごとのビーカーなどを用意する。

外見諸星の面堂「後の残りは…上にあるのか?」

戸棚の上のほうを見る。

手を伸ばしたら届かない。背伸びをしても、あともう少しというところで届かない。

外見諸星の面堂(何で?何で届かないんだ?あともう少しで手が届きそうなのに…)

そう思っていたら、後ろから誰かの手が伸びてきてビーカーを取った。

自分の姿をした諸星だった。

外見面堂の諸星「いや〜少しでも背が高いと楽チンだなぁ」

外見面堂の諸星はあくびなんかしている。

外見諸星の面堂「…お前も当番だろ、少しは手伝え」

外見面堂の諸星「だから手伝ってるじゃん♪」

自分がそんな言葉遣いで、面白そうに余裕で笑っている姿を見るのはなんか…少し腹がたつ。

外見諸星の面堂「そんな笑い方するな。」

外見面堂の諸星「そうか?お前こんな笑い方してると思うけどな」

外見諸星の面堂「
錯覚だ。気のせいだ。僕はそんなへらへらした笑い方はしてない。」

外見面堂の諸星「へいへい。気をつけますって。ダンナ。」

そう言って他の器具を戸棚から出していく。

面堂はしばらくビーカーを取り出す作業をしていたが、思い出したことがあった。

外見諸星の面堂「…前に当番だったとき、

お前、この戸棚の前でピョンピョン跳ねてたことがあったけど

あれは手が届かなくてジャンプしてたのか…あのときはわからなかったけど…

身長が少し違うだけで目線も違うし、いまこうして姿が変わっていると、

ちょっとしたことの違いの苦労が分かったような気がする…」

返事が無いので後ろを振り返る。誰もいない。

外見諸星の面堂
(あの、おバカ!ボケ!すっとこどっこい!!

 いつもぷらぷらしとる癖に、肝心なときにはいない!!!


そこへ自分の姿をした諸星が再び準備室へ入ってくる。

何のことはない、他の使う器具を隣の理科室へ運んでいたのだ。

外見面堂の諸星「面堂?そっちの準備できたのか〜?」

外見諸星の面堂「出来た!!」

そこにいた自分の姿の面堂。なんか
ものすご〜く怒っている。

外見面堂の諸星「何を
ぷりぷり怒っとんだ?お前は?」

外見諸星の面堂「別に怒ってない。用意が出来たからそこにあるヤツを運べ!」

外見面堂の諸星「その姿でえらそうに言っても迫力無いぞ〜」

外見面堂の諸星「
黙って運べ!!

そうして科学の時間も、入れ替わった姿のまま過ぎていった。

授業が全て終わり、放課後になっても2人の姿は、入れ替わったままだった。

外見諸星の面堂「ラムさん。いったいどうして2人とも姿が元に戻らないのでしょう?

これでは家に帰れません。」

ラム「うちの電気エネルギーと変身スプレーの成分の化学反応の相性が地球人には良すぎて長く

作用するみたいだちゃね…

宇宙人のうちは元に戻るのは比較的早かったのに、中心に近かった2人はまだ戻らないなんて…」

外見面堂の諸星「ラム、元に戻る薬とか作れんのか?何とかせい。薬が出来る間、

俺は面堂のフリをして面堂の家に行く。これ以上周りを混乱させることは出来んからな。」

ラム「ちょっと待つっちゃ…」

ラムの怒りの感情が2割ほど増した!!。

外見面堂の諸星「いいな、ラム頼んだぞ」

ラム「どうしてそうなるっちゃ、どうせ了子が目当てだっちゃ!!」

ラム、放電現象を起こしつつ怒鳴る。しかし外見が変わっても、
その逃げ足は天下一品

あっという間に諸星は教室から出て行ってしまった。

ラム「待つっちゃ!!ダーリン」

しかし、外見諸星の面堂がラムを止めた。

外見諸星の面堂「ラムさん、諸星の言うとおりここは元に戻るように

薬か何か対策を進めてくれませんか?」

ラム「どうして止めるっちゃ?いつもなら終太郎だってダーリンの行動を止めるのに。」

外見諸星の面堂は、迎えの車に乗り込む自分の姿を窓から見ている。

外見諸星の面堂「大丈夫。了子は今日は、いないんです。だから安心してください。

それよりいつかは元に戻るとはいえ、それがいつになるか不明ではやはり…」

ラム「…だっちゃねぇ…」

ラムの目の前にいるのは、確かに諸星あたる。でもその立ち振る舞いや言葉遣いはまったくの別人だ。

ラム「じゃあ終太郎はダーリンの代わりにダーリンの家に行ってくれるっちゃ?

うちはUFOにいって研究するから」

外見諸星の面堂「不本意ですが、いたしかたありませんね…」

そう言って2人は教室から出て行った。ラムはUFOへ、自分は諸星の家へ…

流れる風景、面堂邸内を走る車の中。

外見面堂の諸星(まだ着かないのかなぁ、了子ちゃん待っててね。今お兄様が行きますよ〜ん。)

顔が了子に会える楽しみから崩れている。そこへ運転していた黒メガネが声をかける。

黒メガネ「若?どうなされました?学校で何か面白いことでもございましたか?」

あわてて面堂風に少し偉そうな感じで返事をするあたる。

外見面堂の諸星「いいや、なんでもない。それより了子ちゃ…了子は今日、どこにいる?」

面堂家の人間には部屋のような感覚で個人の家が何軒もあるので、それを聞いておかなければ

探すのに時間がかかってしまう。でもそれさえ聞いていれば後は簡単。

もうあたるは上機嫌だった。ラムはいない。面堂もいない。

了子ちゃんとの楽しい時間を邪魔するヤツは誰もいない


しかし運転する黒メガネはそんなあたるの思惑など、吹っ飛ばすようなことを
あっさり言ってくれた。

黒メガネ「今日は了子様は、クラスメートのご学友様方とご一緒に、別荘の方へ行かれて

面堂邸内を留守にされていらっしゃるはずですが…お忘れになったのですか?」

外見面堂の諸星「何?そ…そうか、ちゃんと覚えているぞ…」

(チキショー、どうりで面堂のヤツあっさりと俺を行かせたわけだ。心配の種がないもんだから…)

黒メガネ「若、着きましたよ」

白亜の宮殿のような、面堂個人の家に着く。

中から別の黒メガネが出てきて、ドアを開けカバンを持つ。

黒メガネ「お帰りなさいませ、今日のレセプションは7時から予定どおりに始まるそうです。お急ぎを…」

外見面堂の諸星「レセプション?」

黒メガネ「四菱コーポレーションの会長お誕生会ですよ」

外見面堂の諸星「
パス!!

あたるはおもいっきり否定した。

了子ちゃんがいなければ、面堂邸内で働くメイドさんに、アタックしようかと思っていたからだ。

黒メガネ「何言ってるんですか、今になってわがままはいけません。

それに若も会長の奥様にも会えるのを楽しみにしていらしたではありませんか?」

外見面堂の諸星「奥様?」

黒メガネ「そうですよ、一年ぶりじゃないですか。さぁ早くこちらへ…」

外見面堂の諸星(奥様なんて…面堂が楽しみにしていたって美人か?

了子ちゃんには会えなかったけど、まぁいいか♪)

とりあえず黒メガネが用意していた服に、着替えてヘリに乗り組む。

外見面堂の諸星(待っててね〜♪美人の上流階級のお姉さま達〜♪)

一方面堂の方は、諸星の家までの道を思い出しながら歩いていた。

何回か来た事はあったが、今までほとんど車だった為に道がうろ覚えだったのだ。

外見諸星の面堂「こっちの道で良かったっけ…

学校への道なら方角的にわかるのだが逆となると意外にわかりにくいな…」

道を曲がった途端、その不安は解消された。先の方に歩いていたのはしのぶである。

走ってしのぶに近付く。

外見諸星の面堂「しのぶさ〜ん」

しのぶの肩に手を置く。

外見諸星の面堂「しのぶさ…」

しのぶ「
気安く触んないでよ!!あたるくん!!

次の瞬間には、側の家の壁にぶっ飛ばされて、めりこんでしまっている外見諸星の面堂。

外見諸星の面堂「し、しのぶさん…僕です、終太郎です」

しのぶ「面堂くん…まだ戻ってなかったの?ごめんなさい、てっきりあたるくんだと…

ほとんど条件反射で…ごめんなさい」

外見諸星の面堂「い、いやぁ、いつもながら
あざやかなツッパリ…いえ、なんでもありません」

めり込んでいる壁から出ようとする面堂に、手を貸すしのぶ。

しのぶ「でもこんなところで何してるの?」

外見諸星の面堂「ラムさんと相談して諸星のフリして、しばらく諸星の家に滞在しようかと…」

しのぶ「えぇ?あたるくんのフリをして?どうしてまた…」

しのぶにラムと相談したことを話す終太郎。

しのぶ「なるほどねぇ…でもあたる君の両親うまくだませるかしら?

お父さんの方はともかく、お母さんは意外と
勘がするどいわよ

ヘタな小細工するよりか、ちゃんと正直に話しておいた方がいいんじゃない?」

外見諸星の面堂「う〜ん、そう思いますか?しのぶさん」

しのぶ「そう思うわ」

外見諸星の面堂「ところでしのぶさんは?僕より早く帰ったはずでは無かったのですか?」

しのぶ「今日はピアノのレッスンの日だったの。今はその帰り。」

外見諸星の面堂「そうでしたか。今度しのぶさんのピアノが聞きたいものです。」

しのぶ「そんなに聞かせる腕前じゃないのよ。」

外見諸星の面堂「人に聞いてもらおうと思うからこそ、がんばれるのでは?」

しのぶ「そうね…それも一理あるわね…」

外見諸星の面堂「もうちょっとがんばったら、聞かせてくださいね。」

仲良く並んで歩く2人。しのぶはデジャブーを感じた。

ラムが地球に来る前は、時々2人で並んであたる君といっしょに帰っていた。

もちろんこんな、静かな会話の帰り道ではなかったけれど…そっと隣を見てみる。

いつかどこかで…そしていつも見ている横顔。でも…違う。

隣にいる人は
似て否なる者だ。少しどこか、悲しくなる。

こんなことを思う自分に、面堂君は優しくしてくれる。面堂君は何も知らない。罪悪感を感じる…。

2人でいろんなことを話していると、諸星家の前に着いた。

しのぶ「面堂くん大丈夫?私からあたるくんの両親に話そうか?」

外見諸星の面堂「…不安はありますが…とりあえずしばらく様子を見て話すことにします」

しのぶ「そう…」

外見諸星の面堂「しのぶさん、送ってもらってありがとうございました。」

しのぶ「じゃあ明日学校で。明日には戻ってると良いわね」

明日…明日にも会えるのに…毎日会えるのがわかっているのに、何故かノスタルジーを感じるしのぶ。

外見諸星の面堂「じゃあ、また明日。」

しのぶ(早く明日になって、何もかも元どおりになっていればいいのに…。)

諸星家のドアを開ける外見諸星の面堂。

しのぶ「がんばってね、面堂君。」

外見諸星の面堂「がんばってきます。」

手を振って分かれる2人。

諸星家玄関に入る外見諸星の面堂。

外見諸星の面堂「…ただいま…」

どうしても声が小さくなる。

確か一般的な挨拶として、帰った時「ただいま」と呼びかけるものだと

黒メガネが教えてくれた記憶を思い出しながら、もう一度呼びかける。

外見諸星の面堂「…ただいま…」

諸星の母親が台所からだろうか?奥から手を拭きながら出てきた。

諸星母親「あら、お帰りなさい、あたる。…どうしたの?カバンなんか抱きしめて?ラムちゃんは?」

外見諸星の面堂「…ラム…は、今日はUFOに…」

諸星母親「夕ご飯には帰るの?」

外見諸星の面堂「何時帰るかは、わかりません…」

諸星母親「準備もあるから、ハッキリして欲しいわ…

それよりあたる、なぁに?そのしゃべり方。なんか変よ?」

外見諸星の面堂(!!いきなりもうバレた?)「あの…実は…」

諸星母親「まぁいいわ。1人分くらい。もし戻らなかったら、あんた食べるでしょ?」

そう言いながら母親は、奥の台所へ引っ込んでしまった。

外見諸星の面堂「助かった…」

大きなため息をつく。そして2階の諸星の部屋へ上がっていった。

とりあえず服を着替えて、何をしようかと考える。ここでは自分の出来ることは特にない。

部屋を見回す。相変わらず狭い部屋だ。

狭いくせにコタツまであるから、余計に床面積が小さく感じる。

このコタツは、諸星家の住人以外にもよく使われるのであろう。

コタツを見て直ぐ思い出すのはコタツネコのことだ。

あの巨大な、ネコに対して
巨大という言葉を使わなくてはならないのは何か笑いを誘うが、

よくこのコタツを使用するのは、やはりあのネコであろう。

あのふわふわした毛並み。あったかくてどこか夕焼けのにおいがする。

たまに突き倒しで、ぶっ飛ばされるが嫌いではない。

机の側には小さな本棚。漫画本が並んで下の方にはアイドルの水着写真集とかが置いてある。

机の引き出しを開けてみた。何かのりとか、はさみとか、ごちゃごちゃと雑多な物が入っている。

外見諸星の面堂「ちゃんと区分けして整理しろよ…まったく…」

整理しようと思ったが、自分がそこまでしてやる義理は無いと思い直して次の引き出しを開ける。

そこにあったのは日記帳。

外見諸星の面堂「…そういえば…ずっと前、諸星日記をつけてるって言ってたっけ…

諸星が日記…
諸星が日記…諸星が…

日記帳を持つ手がぷるぷる震える。

自分の顔の筋肉が、笑いの形になっていくのを感じる。

くすくす笑って日記を見ようとする自分と、本人の了解なしに盗み見るというのはプライドが

許さないという自分と必死に戦いながら、やっとのことで引き出しへ日記を戻した。

外見諸星の面堂「ふぅ、諸星の家には笑えるものが突然現れるから気が抜けんな。

…しかし…
諸星が日記…

またしても笑いそうになる自分をこらえて、最後の引き出しを開ける。

外見諸星の面堂「また何か、笑わかしてくれる物がでてくるんじゃないだろうな?」

最後の引き出しにはプラモデルが入っていた。

外見諸星の面堂「なんだ。つまらん。」

ちょっと期待はずれにがっかりする。部屋をもう一度見回す。

外見諸星の面堂「とりあえず宿題でもするか…」

カバンから今日の宿題を取り出して、予習と復習もしてしまうと、

もう後はすることがなくなってしまった。

外見諸星の面堂(ふつう諸星は家で何してるんだろう?あいつがまともに勉強なんかしてるはずはないし…

夕ご飯までは、ガールハントかな…夕ご飯の後はTVでも見てるのかな?

でもこの部屋TVないし…プラモデル造りとか、ラムさんとオセロゲームかな…

ジャリテンが言うにはいつもボロ負けらしいけど…自分だったらシューティング訓練とか、

映画を見るとか、ペットたちの餌やりとか、

フォーシーズンドーム(春夏秋冬の季節を一年中再現している4つのドーム)の散歩とかするけど…)

今ここではすることは何も無い。プラモ造りは趣味じゃないし、見たい本は無い。

ゲームも1人では出来ない。

「…どうしたらいいんだろう…」暗くなってきた部屋で、1人ぽつんと考える。

そして、そんなことを思っていると下から声が聞こえてきた。

諸星母親「あたる〜ご飯よ!早くきなさ〜い。」

階段を下りていくと、諸星の父親がいつの間にか帰っていて新聞を読んでいる。

諸星母親「ラムちゃん戻ってこなかったわね。

テンちゃんもいっしょにUFOなのね…まぁいいわ、先に食べちゃいましょう。

…って、あたる、ご飯前にはちゃんと手を洗ってきなさいよ。」

言われて中身面堂は、いったん入った部屋を出て洗面台へ向かう。

風呂場に目を向ける。扉を少し開けて中を見てみる。

外見諸星の面堂「…な…なんという狭さだ。…これではタコ一匹飼うこともできんではないか?

話には聞いていたが一般家庭の風呂場がこんなに狭かったなんて…

もしかして僕はこんな狭い風呂に、今日入らなくてはならんのか?…」

めまいを起こしそうになる面堂。

手を洗い、そして鏡を見る。そこにいるのは見慣れた姿。

鏡の中の虚像の姿が、いつもおちゃらけた顔が珍しく真剣に実像の自分の姿を見ている。

先ほどの諸星の部屋での、一人の情景を思い出す。

外見諸星の面堂(このまま姿が戻らずに生活もずっとこのままだったら…?

面堂家から解放されたなら?…馬鹿な!!)

手をバッと鏡に向け、蛇口からの流れていた水を散らす。

鏡の中の虚像の自分の姿が、鏡の上を流れる水の中に、ゆがんで消えていく。

水を止め、ため息をつく外見諸星の面堂。

諸星母親「あたる〜いつまで手を洗ってんの〜早く来なさ〜い!!」

呼ばれてあわてて部屋に戻る。

諸星母親「それじゃあ頂きましょうか。」

3人だけの食事が始まる。外見諸星の面堂はとりあえず、ちゃぶ台の上にあるものを観察した。

ごはん、サラダ、コンソメスープ、コロッケ、そして小さいこげた魚の干物らしきもの…

外見諸星の面堂(コロッケはわかるが…なんだこの小さな魚?おいしいものなんだろうか…?)

諸星母親「何見てるのあたる?残った朝のメザシじゃないの」

外見諸星の面堂(これが
メザシ…黒メガネたちが言ってたカルシウムになっていいという

日本古来の健康食…)

ものめずらしさから、真っ先にメザシとやらを食べてみる。

外見諸星の面堂「…にがい…」(これが庶民の味という物なのか?)

諸星父親「母さん、これ焦がして捨てるとか言ってたものじゃないのかい?」

諸星母親「捨てるのはやめたの。やっぱり物は大切にしないとね。」

諸星父親「やれやれ」

あきらめたように箸をつける。

外見諸星の面堂は、だまし討ちされたような気分になったが、文句を言うわけにもいかず

黙ってご飯を食べていた。そんな面堂に諸星の母親が話しかける。

諸星母親「あたる、学校で何かあったの?」

外見諸星の面堂「いいえ、別に何も…」

諸星母親「ラムちゃん帰ってこないし、あんたはさっきから言葉使いが変だし、

それに何よ?さっきから正座してるし……熱でもあるんじゃないの?」

ひたいに手をやって熱を測ろうとする母親。

あわてて避ける外見諸星の面堂。

一般家庭のこともわからず、普段両親との会話が余り無いせいか、

どう対応すればいいのかわからない。

外見諸星の面堂「ほんとになんでも…ないよ」

否定しているあたるに、おもいっきり不信感を抱く母親。

外見諸星の面堂(まずい…このままではバレてしまう…とりあえず2階に非難しよう)

急いでご飯の残りを食べて、「ごちそうさま」と手を合わせその場を離れる。

[あたる]が2階に行った後、残されたあたるの両親、お互いに顔を見合わせる。

諸星父親「かあさん、あたるやっぱりどこかおかしかったな…」

諸星母親「とうさんも気づいてましたか?どこか他人行儀で…」

諸星父親「しかし、そう深刻そうでもなかったみたいだから大丈夫だろう」

2人して天井を、2階を見る諸星の両親…。

そんな会話を、諸星の両親がしているとも知らずとりあえず、まだバレてないと安堵する面堂。

外見諸星の面堂「あぶなかったな…しかしさすがに両親は、これ以上だませないな…

ラムさんまだ対策は出来ないんだろうか…」

部屋の電気をつけて、窓から外を見る。もう空は暗くなりまわりの家にも灯りがつきだしている。

しかし寝るのには早すぎるし、することも無ければ、部屋には誰もいない。

…何も出来ずに一人で過ごす時間。もはや、それは苦痛でしかない。

外見諸星の面堂(もう…いやだ。…こんな狭くて暗っぽい部屋に1人っきりだなんて…)

しかし今の自分にはどうしようもない。ため息をついて時計を見る。

外見諸星の面堂「7時過ぎ…7時…」

何かあったような…?何か引っかかる?

了子のことは問題ない。では何が引っかかる…?

外見諸星の面堂「
しまった!!今日は!!

面堂家の主要な取引先の一つ、四菱コーポレーションのパーティがあるのをすっかりわすれていた。

当主代理で、必ず出席しなければならないのに…

おそらく黒メガネたちが、諸星を会場まで連れて行ったに違いない。

外見は自分そっくりでも
中身は別人

パーティ会場で、あの諸星が何をやらかすかわかったものじゃない。

諸星がやらかしたことは、全て後日に僕の、ひいては面堂家の恥となるのだ。

外見諸星の面堂「
大変だ!

あわてて学生服をはおり、部屋を出て階段を下り靴を履く。

そんな様子に気づいたのか、諸星の母親が玄関先に顔を出す。

諸星母親「こんな時間にまた外へいくの?あたる?」

外見諸星の面堂「急用が出来て…ちょっと出てきます」

困惑している諸星の母親に、とりあえず急用が出来たと断り諸星家を後にした。

その一方であたるは、上流階級のパーティなるものを体験していた。

パーティ自体は面堂の家のパーティに、お呼ばれするときが時々あるので別に緊張も無かった。

しかし、自分がお客側ではなく主役に近いパーティとなると勝手が違う。

面堂家のパーティなら、女の子にちょっかいを出しつつうまい物を食べ、たまに面堂とバトルして

一応満足して帰るだけのことだが、ここではちょっと違った。

綺麗な奥様方、旨い食べ物、期待していたのに…。

外見面堂の諸星「
なんじゃあぁぁ、これは!!

こんなことなら、面堂家主催のパーティの方がずっといい。

その四菱コーポレーションとかいう主催のパーティでは、来ている人々は年配の人が多く、

どちらかといえば、じーさんばーさんの集団だったのだ。

外見面堂の諸星「会長という時点で気づくべきだった…」

一般的に会長職というものは総じて、年取った人がなっているものである。たまに例外もあるが…。

この四菱コーポレーションの会長は、例外ではない人だったようで出席者も

当然、年齢的に近い人々ばかりだったのである。

それにうまい物を食べようとすると、ぜんぜん知らん中年のおっさんとかじーさんとかが

挨拶に来るので、食べることも満足にできない。

しかも中には、明らかに自分個人(面堂個人)ではなく、面堂財閥に対しての挨拶で

ゴマすり的なものもあり、仕事上の挨拶とはいえ、

あたるでなくても、神経を逆なでするような代物もあった。

外見面堂の諸星(こんなことなら来るんじゃなかった。

しかし面堂のヤツよくこんなパーティに出られるな…面堂が会うのを楽しみにしていた

会長の奥さんってどこにおるんじゃ?)

あたるはお金持ちも楽じゃないということを、理解したような気がした。

そんなことを思っていると、ちょうどそこへ軽く服の袖を引っ張る女性がいた。目をやるあたる。

やはり年配の女性が立っている。

雰囲気としてはやさしそうな、おだやかそうな苦労知らずのお嬢様が

そのまま年を重ねたような感じだ。この女性、さっき会長とやらの側にいた。

どうやらこの人が会長の奥さんらしい。

会長夫人「久しぶりねぇ終太郎君。元気?大きくなるの早いのねぇ、前はこのくらいだったのに」

そういって親指と人差し指を指し示す。その指の離れている距離は5cmほどしかない。

『確か会うのは一年ぶりだったはず。一年でこんなにでかく成長するはず無かろ〜が。

俺は(面堂は)
一寸法師か?』と言うようなツッコミをこらえて

外見面堂の諸星は、とりあえず面堂らしく挨拶することにした。

外見面堂の諸星「こんばんは、四菱のおばあさま。お元気でしたか?」

こんなセリフ、自分が言ってて何かこそばゆいが、とりあえず演技を続けた。

会長夫人「私は元気よ。終太郎君は、いつもいい子ね」

そう言って足のつま先を伸ばし、頭をなでてくれた。

あわてて、あたるはその人の負担にならない様に、少しかがんで頭を少し下げる。

あたるはびっくりした。

あの面堂に、頭をなでてもらう他人がいたなんて。

しかも身長的にはこちらが少しかがんで、頭を下げなくてはいけない。面堂が頭を下げるなんて…。

でも会長夫人は何の不信も表さず、頭をなでてくれている。

相手が慣れているところを見ると面堂は、この人だけには頭を下げているのだろう。

俺は突然理解した。

面堂財閥という企業に挨拶するのではなく、この人は本当に面堂個人をかわいがってくれている。

孫かわいがりの様な感覚でいることを…。

俺はしばらくそのままでいた。頭をなでてもらう感覚。

自分も母さんに小さいときは、よく頭をなでてもらった。

あのときの感覚は気持ちよく、女性をガールハントして、成功したときのような気持ち良さとはまた違う。

外見面堂の諸星(…あぁ…ホントになんか、気持ちいい…)

そんなところへ、アナウンスが聞こえてきた。

誕生会司会者「…それでは次に面堂家ご嫡男。面堂終太郎氏に、ご挨拶を…」

外見面堂の諸星(
なに!!

会長夫人「終太郎君、がんばってね♪」

人の波が分かれてステージのところまで道が出来る。

外見面堂の諸星(どーすればいいんじゃ?)

逃げることも出来ず前に進む。みんな期待して自分を見ている。

こんな真面目なパーティでは、さすがに笑いを取るわけにはいかない。一体どうすれば…

そこへあるものが目に付いた。ピアノ。ちゃんと演奏者も座っている。

あわてて側に近寄り、何事か耳打ちする外見面堂の諸星。

何をするのか招待客はみんな見ている。そしてピアノ伴奏が始まり、歌声が響いた。

外見面堂の諸星「happy, birthday to you〜happy birthday to you〜happy birthday〜」

みんな最初はあっけにとられていたが、一人二人と歌に加わる。

最後にはみんなの合唱となった。歌が終わり面堂らしく優雅っぽくお辞儀する。

みんなの拍手の中ステージから降りて一息つく。

外見面堂の諸星(はぁ、一体どうなることかと思ったぜ。)

そこへ四菱会長と会長夫人が、うれしそうにやってくる。

会長夫人「よかったわ、終太郎君」

四菱会長「ありがとう、まさか歌を歌ってくれるなんて、

くだらん心にもないスピーチの多い中、本当によかったよ。」

外見面堂の諸星「いいえ〜どういたしまして、これくらいしか出来なかったし…」

そこへ黒メガネが近寄って礼をする。

黒メガネ「お話中に申し訳ありません。失礼致します。

若、諸星あたるがどうしても会わなければと来てますが、いかが致しましょう?」

会長夫人「どなた?お友達?」

外見面堂の諸星「クラスメートです…」

会長夫人「めずらしいわね、水乃小路の飛麿ちゃん以外にお友達が尋ねてくるなんて。

入ってもらったらいかが?」

元に戻る薬とか出来たのかもしれない。これ以上ここにいても気疲れするばかりだ。

このあたりで元に戻った方がよさそうだ。

その場を離れ、会場から出て隣のロビーへ向かう。

黒メガネにはさまれて、小さく座っている自分の姿。

とりあえず2人もっとスミの観賞植物を置いてある目立たない場所へ移動する。

外見諸星の面堂「何やってたんだ今の歌?聞こえたぞ?」

外見面堂の諸星「ちょっとスピーチに困ってな。」

外見諸星の面堂「それでハッピーバースディの歌か、なんて恥ずかしいヤツなんだ。」

外見面堂の諸星「その恥ずかしいヤツはお前ということになっとるんだ。

残念だったな。それより元に戻る薬とか出来たのか。ラムはどうした?」

外見諸星の面堂「まだだ。ラムさんもUFOから戻ってきてない。」

外見面堂の諸星「いったい何しに来たんじゃ、お前は?」

外見諸星の面堂「お前の様子を見に来たに決まってるだろ。

お前が何かやらかしはしないか、不安だったんだよ」

外見面堂の諸星「…これからどうすりゃ良いんだよ。

俺はもうこの格好でいるのは疲れちまった。帰ろうかな…」

外見諸星の面堂「帰るって自分の家にか?姿が戻ってないのに?」

外見面堂の諸星「それしかないだろ〜が…」

そこへ軽快な音がした。

パーティ用のクラッカーの音だ。2人、目を閉じて思わず耳をふさぐ。

そして再び目を開けると…2人とも
元の姿に戻っていた。

諸星「戻ってる…のか?」

目の前の面堂の顔をおもいっきり引っ張る。

面堂「痛てて!!何をするか諸星〜!!」

一瞬のうちに現れる閃光。慌てて真剣白羽取りの奥儀を展開する諸星。

面堂「こういう場合は自分のほっぺたを引っ張るのではないのか?諸星!」

諸星「知らんのか?自分ではなく
他人のほっぺたを引っ張るのが正解なのだ。」

面堂「嘘をつくな。それくらい黒メガネに聞いて知ってるぞ。」

諸星「臨機応変だよ。こ〜いう場合。」

面堂「
黙れ!

いつもの喧嘩が始まるのかと思いきや、ロビーに四菱会長夫人が現れた。

会長夫人「終太郎君、お友達はどうしたの?」

諸星「は〜い、ここにいま〜す♪」

会長夫人「あなたが終太郎君のお友達?お名前は?」

諸星「
諸星あたるで〜す♪

会長夫人「元気ねぇ、よかったらいっしょにご飯食べていかない?ご馳走たくさんあるわよ」

諸星「喜んで。」

面堂「四菱のおばあさま…そんなこと…」

会長夫人「硬いこといわないの。さぁ行きましょ」

諸星「は〜い♪」

夫人と諸星2人、並んで会場に入っていく後ろを、しぶしぶついていく面堂…。

小一時間もして会場をでる面堂と諸星。黒メガネが運転する車の中。

諸星家へ向かっている。

諸星「なんで出るんだよ、まだパーティ続いているのに…」

面堂「これ以上いると、お前が何かやらかしそうで怖いんだよ。

それにしても、女性があまりいないというのに熱心だな。食い物に釣られたか?」

諸星「ま〜な。でもちょっとじーさんやオッサン連中が多かったかな…うざかったけど、

あのやさしいばあちゃんは好きだ。」

面堂「そうか…僕もあの人は好きだ。亡くなったおばあ様に(※)似てるから。

だからあんなパーティも我慢して出られる。」

諸星「そっか。パーティってどんなものでも楽しいものと思っとったが、

いろんな感じのパーティがあるものだ。」

面堂「世の中、酸いも甘いもあるものさ。」

諸星「ふ〜ん」

そんなことを話していると、車が諸星家玄関前に到着する。

黒メガネ「若、諸星様のご自宅へ着きました。」

諸星「あ〜やっと着いたか。腹減った。」

面堂「あれだけ食べてまだ足りんのか?」

諸星「そんなに食べてないぞ。挨拶ばっかりしてたんだからな。それより見ろこれを。

ばーちゃんから土産をもらった。食い物を折り詰めにしてもらったんだ。」

風呂敷に包まれたそれは、かなり
でかい

面堂「何を持っとるのかと思えばいつの間に…要領よすぎるぞ、お前。」

すると暗闇、上空から声がしてくる。「ダーリーン!」

諸星「ラム!」

ラムが何か小瓶を持って空から降りてくる。ジャリテンもいっしょだ。

ラム「ダーリンやっと薬が出来たっちゃ…って、元に戻ってる?」

諸星「ちょっと前に元に戻ったんだ。さ、家に入るぞ」

ラム「終太郎、ダーリンのご両親にはバレなかったっちゃ?」

面堂「えぇ大丈夫です。」

ラム「良かったっちゃ。じゃあまた明日」

諸星「じゃ〜な〜」

面堂「また明日」

ラムと諸星2人家に入る。これからみんなでお土産を食べるのだろう。

車に乗り込もうとした面堂の耳に音が聞こえてきた。

「フン…フン…」目の前に暗闇から白い物がぼんやり見え出す。

歩くたびに何故か音階を発するコタツネコである。

面堂「コタツネコ…諸星の家のコタツに入りに来たのか?」

そうだという風に目を細めるコタツネコ。

面堂「ちょうどいいタイミングだな。今訪ねるとケーキとかお菓子なんかも、もらえるぞ」

コタツネコ嬉しそうにのどをゴロゴロさせる。

そして持っていた紙袋から案の定、たいやきを取り出して面堂に手渡した。

面堂「くれるのか?…ありがと…」

そしてコタツネコはまた音階の音を出しながら、諸星の家の中へ入っていった。

それを見届けて、面堂は車に乗り込む。

車が走り出す直前、後ろを振り返ってみる。2階の諸星の部屋に明かりが灯る。

一人だけでなく、明かりの灯っている中にみんなといっしょにいるということは、

幸せでいい方の部類に入るのだろう。

自分もまた明かりの灯っている家に帰るのだ。

大勢のみんなのいる家に。

そんなことをぼんやり思いながら終太郎はまだあったかい、

たいやきをほおばりながら家に帰ったのだった。

終わり。


(※アニメにて面堂のセリフ説明のみ登場、
水に入る前には必ず準備体操するように遺言を残したやさしい人。)

ほのぼのとちょこっとシリアスを目指した現代版「王子とこじき」(爆)
アニメ化していない原作を小説に起こしてみた作品です。
面堂邸さまへ以前投稿しましたが、少し書き加えたものを掲載します。
今回はコースケが、でてきました。私の認識ではコースケもメガネ達4人組と同時に教室に存在しています。
アニメではパーマの原型でコースケはいないものと思われがちですが、
実はアニメの方にもコースケは画面にでています。
しかもパーマと同画面上にです。ですのでコースケも普通に
小説出演します。(今回は少しだけだけど)
以前投稿した時、読んで下さった方の感想で、あたるの日記には普段のあたるとは裏腹の、
ナイーブで繊細な事が書かれていれば、
いつもとは違うあたるが垣間見れるかも…という感じの感想を頂きましたが、
その時私が考えたのはあたるの日記には面堂への愛の告白でも
(フランス人が書いたような超恥ずかしい詩とか)書かれていて、
偶然、若がそれを読んで立ち直れないほどのダメージを受けて、
ぶったおれるギャク小説でも別バージョンで書こうかな、等と考えてました。すみません。