―通称パーマと呼ばれる俺が決めたこと―

チビ「早く来すぎたかな?」

カクガリ「そのうちメガネたちも来るだろ。」

パーマ「女装なんて、特にメガネの女装なんてみたら相手の女の子、卒倒してしまうかもしれんぞ?」

そんなことを話しながら俺たちは家政科室へと向かっていた。

俺、カクガリ、チビの3人は今度行われる闇鍋ディスコパーティの実行委員会メンバーとなり体育館の飾り付けや

ミラーボールの借り受け、音楽テープの選別、などを行っていた。

他にもメンバーは諸星とラムさん、しのぶにメガネに面堂といったいつものメンバーだった。

しかしメガネの提案で今までとは少し趣向を変えて男子メンバーは踊りの途中から女装してパーティに紛れ込み

パートナーとなった女の子を驚かすといった笑いを取る余興をすることになり、

事前に仮衣裳を着てお化粧をしてみようと女の子に内緒で家政科室を先生に借りて

服とかアクセサリーをもってきたところであった。

ピシャ!!開けたドアをあわてて閉めるチビ。

カクガリ「どうした?チビ?」

チビ「なんか見たことない
すごい美人がいた。」

カクガリ「美人?何で女子が…貸し切りのはずだろ?」

同じようにドアを開けて直ぐドアを閉める。

カクガリ「あんな娘、友引高校にいたっけ?」

パーマ「どれどれ?」

ドアを開けようとしたら先にドアが開いた。

そこにいたのは可憐な…いや、凛とした涼やかな雰囲気を持った
美少女だった。

日本人としてはもう珍しくなってしまった綺麗な長い黒髪。

色白で少し長いまつげの二重の目じりにはうっすら朱が入り、その唇も同じ系統色の緋が薄くのせられている。

少しほっそりした感じでセーラー服のスカートからは、すらりと長く足が伸びている。

パーマ「え…っと、あの…どちらさま?」

「3人とも、何を突っ立ってる?」その声!!

パーマ「め、面堂?お前?ほんとに!」

面堂「どうしたというのだ?」

腰が抜けるほど驚いた。まさか、まさか女装した面堂だったとは!!

メガネ以外の俺たちとあたるが知っている

聖なる胃袋とあだ名がついている俺の彼女よりも美人である。
男なのに。

なんだか「お姉さま」となぜか
「様」をつけないといけないような雰囲気である。

カクガリ「よくも化けたものだなぁ〜」

チビ「ほんと。これじゃあパートナーになった女の子の方が、違う意味でかわいそうな気がするよ。」

俺はカルチャーショックから少し立ち直った。

パーマ「お前一人で化粧したのか?髪はつけ毛か…うまいもんだな。」

面堂「少し慣れてるからな」

カクガリ「慣れてる?お化粧がか?」

チビ「家で
女装してるの?」

面堂「違う!!小さな頃女の子の姿でいたから慣れてただけだ。」

3人とも面堂の答えが唐突過ぎて理解できない。

パーマ「どういうことだ?わかるように教えてくれよ」

面堂「昔は小さな男の子は、女の子の格好をさせられていた家が数多くあったそうだ。

そのほうが丈夫に育つといってな。

今ではだいぶ廃れてしまった風習だが、面堂家では今でもそれが続いているんだ。」

カクガリ「あぁなるほど、俺、おばあちゃんからそんな話きいたことあるよ。

あと似たような話では子供を捨てる話とか。」

チビ「子供を捨てる??」

カクガリ「ほんとに捨てるんじゃないよ、時間と場所と拾う人を決めて赤ん坊を置くんだ。

もちろん両親は近くで見てる。

そこへ決められた人が来て赤ん坊と義理の両親としての契りを結ぶんだ。

赤ん坊を本当の両親といっしょに見守りますという制約の誓いをたてるのさ。

昔は病気や怪我、経済的な理由で親が子供を育てられなくなるっていうのは珍しいことじゃなかったらしいから、

子供を守るための昔の人の知恵さ。」

面堂「よく知ってるな。」

カクガリ「そういう話の時代劇をおばあちゃんといっしょに、この間見たばかりだったからな。」

パーマ「おれも似たような昔の人の風習知ってるぞ。これは実話だけどな。

俺のおじさんとおじいさん、今まで嘘の名前だったんだ。」

チビ「なにそれ?」

パーマ「俺のおじさんの住んでるところ、ちょっと田舎の雰囲気が残っててさ、

本当の名前が、みんなに知れるといけないっていうんで今まで偽名だったんだ。

もちろん戸籍とか公的書類は本当の名前だけど、家に来る年賀状とかの名前は嘘の名前だったんだ。

俺ずっとその名前だと思っていたのに、そのこと知ったのは最近でさ、びっくりしたよ。

でも本当の名前はいまだに知らない。」

チビ「何で知られちゃいけないのさ?」

パーマ「おじさんが言うには親が人に教えちゃいけませんって…なぜか知らんけど、

とにかく読み方はそのままで字が違うらしい。

おじいさんのほうは、おばあさんに聞くところによると漢字はわからんが、読みが違う名前を二つ持ってた。」

面堂「言霊の習慣からじゃないのか?」

カクガリ「何だ?言霊(ことだま)って?」

面堂「昔の風習でな、この世の万物には全て真の名前があるそうだ。

名前には力があって、

もし本当の言葉が親、兄弟以外の悪意あるものに知られたら、名前を使って操られてしまうそうだ。

それを防ぐため、この世には本当の名前と嘘の名前があるという。

サクラ先生ならもっと詳しく知っているだろう。」

パーマ「なるほどねぇ。昔の人はそれなりに子供を大事にしてくれてたんだ。」

カクガリ「俺、おばあちゃんに自分の知らない本当の名前が、ないか聞いてみようかな?」

チビ「よくわかんないけど、案外二つ名とか源氏名とかいう起源はここから来てるのかもしれないね。

そういえば仲間内で通じるあだ名も二つ名と言えるかな?」

面堂「それより諸星やメガネはどうした?」

鏡の前でスカートの端をつまんで、くるりと一回転する面堂。

パーマ「そのうち来るだろ〜しかし面堂よ。」

面堂「何だ?」

パーマ「似合わんぞ。」

面堂
「美しいものが嫌いな人はいない。」

ものすごい自信である。さすが面堂のセリフだと思う。

パーマ「たしかにそうかもしれんがな〜メガネが怒るぞ。」

面堂「何故?」

パーマ「趣旨が今回違うだろ。俺たちの役どころは笑いを取る役なんだから…

メガネの長い説教なんか聞きたくないぞ。それにな…諸星が…」

面堂「諸星がどうした?」

パーマ「諸星がお前に抱きついても知らんぞ?それでもいいのか?」

面堂「何を馬鹿なことを。男と女の区別ぐらいあのアホでもつくだろうに?」

自分で自分を美しい等と言っていて、容姿に自信を持っているなら、

もし諸星が自分を見たらどういう行動をとるか、少し想像すればわかるだろうに…

そのことをまったく考慮しないところが、面堂らしいが…

そんなことを考えているパーマの耳へ、音が聞こえた。

ガラッと音がして、振り向くとそこにはメガネと諸星の姿が…。

一瞬、諸星の姿が残像を残してかき消える。

メガネ「消えたぁ!残像拳か!?(byドラゴンボール・笑)」

想像どおりに諸星がすぐさま、しかもこともあろうに太ももに抱きついてガールハントを始める。

諸星「お嬢さん、どこかでお会いしたことありませんでしたか?

僕の知り合いのお金持ちの了子ちゃんに似てるけど、お姉さんかな?いとこかな?」

チビ「アホ…」

カクガリ「バカ…」

パーマ「切りかかられても知らんぞ…」

案の定、面堂はおもいっきり眉を寄せて不快感をあらわにしている。

どこからかいつも不思議だが刀が現れた。スラリと刀身を抜く。

セーラー服の美少女(?)に、波紋きらめく日本刀。

その姿はまるで

映画で見た任侠(にんきょう)の世界に生きる極道の女親分になってしまった戦う女子高生の姿だ。

面堂「き・さ・ま・は・男・と・女・の・区・別・も・つ・か・ん・の・か・!!」

激怒している!。

かなり激怒している!!。

たとえようもなく激怒している!!!。

これはもう本当に任侠の世界のように血を見ないと済まないかもしれない。

諸星「うわあぁ!!お前、面堂!!うわああぁ!!!」

女装した面堂に驚いているのか、

男に声をかけてしまった自分への驚きなのかは知らないが、無意味に絶叫するあたる。

悲鳴を上げる暇があるのなら早く逃げればいいものを。

諸星「ひえ〜お助け〜!!」

戦う女子高生となった面堂にはもう諸星の頼みは聞き入れない。

いつものことだが。(笑)

面堂「待て〜!!」

逃げるあたるを追いかけて、教室から出て行く面堂の後姿を見ながら俺は笑い、

化粧っ気の余り無い彼女に今度、口紅でも送ろうと決めたのであった。



おわり。
この話を書いた頃、私は若の女装に凝ってました。絵も女装の若ばっかり書いてました…爆笑。
ところでパーマの実話の話、実話です。
わたしの周りでは少なくとも3人偽名を使用している親戚がいることが判明しました。
(この事実をはじめて知ったときには衝撃でした。だって十数年それが本当の名前だと思っていたからです。)
理由はまず、おじさん、いとこが商売人、サラリーマンのため
商売運を上げるためや、他人に名前を覚えてもらうためという理由を知りました。
まぁ歌手の偽名みたいなものでしょう。年代的に見て完全に風習が絡んでいるのはおじいさんです。
わたしが生まれたときにはもう亡くなっていたのですが、母から
「私のお父さん2つ名前があったんだよ」と聞かされたときには「はぁ?」ってな感じでした。
しかも嘘の名前の方が本当の名前より、りっぱだったのです。
これも本名を隠す昔の人の知恵でしょうか?
また、ワザと子供を捨てて決めた人に拾ってもらう事や、
男の子が小さい時、女の子の格好をさせるというのも昔、実際にあった事だそうです。
皆さんの周りにも、もしかしたら二つ名を持っていらっしゃる方がいるかもしれませんね。