―面堂が友引高校へ来た理由―


―クラスでのいつもの騒ぎ―

面堂「またしても、貴様あぁぁ!!」

激怒して日本刀を振り回している面堂に、軽やかにあざやかに避けていく諸星。

クラスメートは無責任に「もっとやれ」などとけしかけて、

どっちが勝つか賭けをしている者さえいる。諸星が刀を真剣白羽取りにした直後、

1人耐えに耐えていた、その者の怒りが爆発した。

「いい加減にせんかあぁ!!2人とも。諸星!面堂!」

怒り心頭した声。温泉マークである。

そう、休み時間ではなく、授業中でのバトルだったのだ。

温泉マーク「毎回毎回授業を潰しおって俺にも考えがあるぞ!」

面堂「授業を潰す原因を作るのは、ほとんど諸星です!」

諸星「俺だけじゃないだろ!!」

温泉マーク「諸星は一応クラス委員長だろうが、委員長が率先して騒ぎを起こしてどうすんじゃ?

面堂は副委員長、委員長が騒げばおまえが抑えんでどうする!」

面堂「僕はちゃんと騒ぎを抑えようとしてます!」

すぐに諸星ツッコミを入れる。

諸星「どこがじゃ?」

面堂
「元凶は黙っていろ!!」日本刀を振りかざす。

温泉マーク「やめろと言うとろーが!」

どこからか木槌(きづち)が取り出され、2人ともぶったたかれる。

それを見ていた、ラムの他人事のような一言。「過激な教師だっちゃ」

温泉マーク「さっきも言ったように考えが在ると言っただろう。聞け2人とも。」

一応2人とも聞くフリはする。

温泉マーク「騒ぎを起こした責任を負ってもらうとして、2人には今度のテストは連座制とする。」

諸星、面堂ともに不思議そうな顔をする。

諸星、面堂「連座制?」

温泉マーク「そうだ。どちらかテストの点数の低い方にあわせて同じ点数とする。」

面堂「馬鹿な、それでは諸星の点数にあわされるのは必定ではないですか?」

怒って温泉マークに詰め寄る面堂。面堂はこれでも学年トップの成績だったのだ。

それが全科目100点とっても諸星と同じ点数とされるのだ。怒るのも無理はない。

一方諸星のほうは、自分に実害がないと判断し、「面堂ご苦労だなぁ」とか言って笑っている。

温泉マーク「落ち着け面堂、そこでだ。お前が諸星の成績アップのために勉強を見てやれ、

そのためには、どんな手段をとってもかまわん。諸星の両親にも俺から話を通しておく。

これからテストまで2週間、学校以外での時間は諸星に自由はない。

監禁しようが何だろうが、成績アップのためなら何だってしても良い、俺が許す。」

それを聞いた、諸星すぐさま温泉マークに抗議する。

諸星「めちゃくちゃ横暴だ。面堂なんかに自由を奪われるくらいなら…」

面堂「死んだ方がまし…か?諸星あたる」

刀をのど元に突きつける面堂。

ラム「先生、いくら何でも横暴すぎるちゃ」

あたるを助けようと先生に詰め寄るラム。そしてラムの助けに、応援を送る諸星。

諸星「いいぞ、ラム。俺を助けろ!」

しかし温泉マークの方が、駆け引きは一枚上手だった。

温泉マーク「面堂に任せておけば、諸星のガールハントもしばらくは無くなるぞ」

ラム「よろしくお願いするっちゃ」あっさりと引き下がり、お辞儀までするラム。

諸星
「裏切り者おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

しかし今度はラムに代わって会話を聞いていたメガネが、面堂に食い下がる。

メガネ「面堂!先生の許可をいいことに、諸星の家に上がりこみ

ラムさんといっしょに勉強会をするつもりなのであろうが!許さんぞ!

ラムさん、諸星は面堂に任せておいて、ラムさんは私といっしょに勉学に励みましょう。」

面堂「誰がそんな下らん考えでいるものか!成績が、かかっとると言うのに。

ラムさん申し訳ありませんが、テストが終わるまでUFOに帰っていてくれませんか、

メガネたちが乱入してきて、その隙に諸星が逃亡しても困りますので。」

ラム「わかったっちゃ、UFOに帰って勉強はしのぶといっしょにするっちゃ。いいっちゃ、しのぶ?」

しのぶ「かまわないわよ」

メガネの希望を
簡単に否定するラム。それはそうだろう。

成績がいいのは、どう見てもメガネよりもしのぶの方である。教えてもらうには、しのぶの方が的確だ。

ラム「ダーリンも、たまにはまじめに勉強して成績を少しでも良くするっちゃ」

しのぶ「応援してるわ、あたるくん♪」

諸星「何が応援じゃ…しかし面堂、なんで俺の家に来るという話になっとんだ?。

俺がお前んちに行っても…」

面堂「何をとぼけた事を、おまえが僕のうちに来ると、了子に手を出すに決まっておろうが。

しかも広大な面積を誇る面堂家邸内に、逃げられると見つけるのに下手をすると、

2週間ぐらいかかるかもしれん。お前の逃げ足は天下一品だからな。」

そんなことを話していると、授業終了の鐘が響き渡る。と同時に諸星が脱兎のごとく

教室を飛び出そうとする。

しかし、そんな諸星の行動を予期していたラムが電撃を、しのぶが机を、面堂は釣鐘を、

メガネたちが木槌を、温泉マークがチョークを手裏剣のように、投げつけた。

そして面堂は、電話を取り出し

「面堂家終太郎直属部隊は、直ちに諸星家半径50メートル四方を完全封鎖。

実弾装備も許可する。僕が諸星を自宅へ連行しだい、家から一歩たりとも出すな。

24時間体制で監視せよ」

とすかさず指示を出す。みんなの見事な連係プレーで、諸星を捕まえる。

諸星「何でみんな面堂の味方を…」

ラム「ダーリンよく考えるっちゃ、家庭教師がただで来てくれるようなものだっちゃ」

しのぶ「少しは成績を良くして、お母さんを喜ばせてあげたら?

もしかしたら、おこずかいアップしてくれるかもよ」

メガネ「俺は味方なんかしてないぞ、これっぽっちもな。

学生が勉学に励むのは当たり前のことだからな、たっぷりしぼられちまえ。」

そして温泉マークが最後の宣告を一言告げる。

温泉マーク「諦めろ、諸星。」

諸星「そんな…」

そして荒縄でぐるぐる巻きの簀巻き(すまき)状態にされたあたる、

そのまま終太郎といっしょに車に乗って諸星家へ行くことになってしまった。


―勉強会―


放課後、車で家まで送られる諸星。

諸星から見たら、送りではなく連行だが逃げようにも、

すまき状態なので、逃げることは出来なかった。しかも逃亡しても資金がない。

ラムによっておこずかいの入った財布は、預かられてしまったのでる。

車の運転している黒メガネが、諸星家に着いたことを知らせる。

面堂「さぁ着いたな諸星。もう観念しておとなしく勉強するのだな」

周りを見まわすあたる。

不自然に道路の真ん中で道路工事をしている工事人。電柱で配線工事をしている工事人。

通り過ぎる通行人。それら全てがサングラスをかけている。

諸星(これじゃあ、包囲網を簡単に突破することは難しいなぁ。しかし黒メガネ達、

何故に、こうもわかりやすい変装をして、気づかれんと思うのか?それが一番わけわからん…)

玄関へ入る2人。諸星の母親が2人を出迎える。

諸星母親「お帰りなさい、あたる。温泉マーク先生から電話があったわよ。

あんた、これから缶詰状態になるらしいじゃないの?まぁまぁ面堂君も災難ねぇ」

軽く一礼する面堂「諸星のお母様、僕の力でどこまで出来るかわかりませんが

全力を尽くしたいと思います。」

諸星母親「頼りにしてるわ、お願いね。」

にっこり笑い、そう言って台所へ戻っていく。

諸星「お前なぁ、いくらなんでも母さんにまで愛想良くするなよ」

面堂「何がだ?」

諸星「あ〜なんでも無い。お前ってそういう奴だよ。」

あたるは少しふてくされていたが、終太郎の方は諸星が何故ふてくされているのか判らない。

諸星「まぁいいよ、2階にいこうぜ。俺、もう腹をくくったよ。ガールハントしようにも金ないし」

ぶつぶつ言いながら2階に上がり部屋に入る2人。

面堂「何回か来たことはあるけど、相変わらず狭い部屋だなぁ」

諸星「ほっとけ、
それよりいい加減この荒縄解けよ(怒)

終太郎、荒縄を刀で切りながら話す。

面堂「逃げるなよ、わかっているとは思うが周りは黒メガネたちが固めてある。

しかも上空からはヘリ部隊が、さらに高高度からは面堂家監視衛星が、この家を監視しとるからな」

諸星「はいはい。わかりましたよ〜ん。」

取りあえず腰を下ろす2人。

諸星「それで?何から始めるんだ?」

面堂「とりあえず昨日の小テストの用紙と全科目のノート見せろ。」

あたる、かばんからノート類を差し出す。終太郎は渡されたノート類をパラパラとめくる。

諸星(あ〜俺の部屋で勉強会ねぇ…何が悲しゅうて、面堂なんかと勉強会をせねばならんのだ?

でも考えてみれば、まだラッキーなほうかな…こいつの家に行けば了子ちゃんには

会えるかもしれんが、下手すれば
牢屋に入れられて、問題が出来なかったら拷問されるかもしれん。

とりあえず、ここでなら両親も下にいるし、飯にもありつけるし、メリットを考えれば無難かな。)

そんなことを考えながら面堂の方を盗み見る。

すると面堂の方は、ノートをめくるたびに形のよい眉がよって、眉と眉の間に縦ジワが出来ている。

諸星
(あぁー!こいつ!!早くも機嫌悪くなってるぅぅぅ〜!!

何だ?何を怒っとんだ?こいつは?)


パタンとノートを閉じ、諸星のノートのチェックを終えた終太郎、諸星に目を向ける。

半分逃げる体勢になり、ビビる諸星。

諸星「な…なんだ?」

面堂「予想はしていたが、ここまで酷いとはな。」

諸星「何が?」

面堂「お前もう少し授業はまじめに受けろ、何だ?このノートのとり方。

どうでも良いような事は書かれて、要点は、はずしてる。落書きはあるし、

居眠りした、よだれの跡まで残ってる。」

諸星「まぁ、自分でもちゃんと整理して書かなくちゃとは思っとるんだがな…お前のノート見せろよ」

面堂の差し出されたノートを見てみる。几帳面な字でびっしり書き込んだノート。

要点も、綺麗に色塗りされて誰が見ても判りやすいノートになっている。

諸星「よくここまで、あの授業で書くことあるなぁ、感心するよ、それにこのノート、

テスト前に、コピーでもすれば高く売れるぜ、
絶対。」

面堂「
売るつもりも、貸すつもりもまったく無いからな。それより小テストの結果とか、

ノートとか見てみると、どうも基本中の基本から復習した方が、お前にはわかりやすいような気がする。

中学の時の教科書とかあるか?」

諸星「中学〜!そんな前からやり直すのか?」

面堂「急がば回れって言うだろ、基本が判ってないと途中部分から勉強したって理解出来ない。」

諸星「中学の教科書なんかあったっけ…俺は捨てても良かったけど、

母さんが捨てるのもったいないからって置いてたような気はするけど…」

とりあえず、隣の部屋の押入れに教科書を引っ張り出しに行き、ついでに窓から外の様子を伺う。

やはり、サングラスをかけた通行人が歩いている。

諸星(あ〜やっぱり脱出は不可能か…しょうがない)

あきらめて部屋に戻り面堂に教科書を見せる。

教科書を受け取り、やはりパラパラとめくりながら小さな声でつぶやく面堂。

面堂「中学ってこんな内容を習うのか…」

諸星「中学はみんな同じ内容だろ?何言ってんだ?」

その言葉に一瞬肩を震わせる面堂。

その様子を見逃さない諸星「何だ?」

面堂「なんでもない、じゃあ基本から教えるぞ。」

諸星「へいへい」

とりあえず勉強会らしきものが始まった。

1時間のうち、40分集中して勉強をして20分休むという方法で、勉強が進められる。

そのくらいの短い時間でさえ、監視付でも諸星の集中はあまり続かなかった。

それに面堂の予想どおり、諸星の学力は中学問題でさえ危ういものであり

さしもの面堂も、頭を抱える時があるほどであった。

夕食を食べると頭が働かなくという理由で、ご飯を食べさせてもらえず、夜9時近くになり

「腹減った。」「死ぬ。」などと、わめいているあたるを無視して、

作成した問題の解答をしていた面堂。

そんなところにパタパタと軽い音が聞こえ、ドアをノックする音が聞こえ諸星の母親が顔を見せた。

諸星母親「うるさいわよ、あたる。1食抜いたぐらいで泣きごと言わないのよ、

面堂君だって同じ条件じゃないの」

諸星「母さん助けて〜もういやだ〜頭が痛い、腹が痛い、
もう死ぬ〜」(泣)

諸星母親「頭が痛いのは、普段使わない脳ミソ使ってるからでしょ、お腹が痛いのは

ただお腹が減ってるだけじゃないの。それより面堂君の家の方は大丈夫なの?

親御さん心配してない?」

面堂「はい大丈夫です。連絡は一応していますから、…心配なんかしてもいないでしょう。

でももう遅いし、そろそろ失礼しようかと思っていたんです。」

諸星「お〜早く帰れ帰れ、もうお前の顔なんか見たくないわい」

諸星母親「まだ1日しか経ってないのに何ですか、勉強見てくれる面堂君に失礼でしょ。

とりあえずオニギリ作ったから食べてお帰りなさい。」

母親が、山盛りのオニギリを机の上に置くと同時にオニギリにかぶりつくあたる。

面堂のほうも、もはや諸星の
我慢の限界と悟りノート類を片付ける。

諸星母親「それじゃあ面堂君、明日もよろしくね。」

面堂「お任せ下さい」

そんな会話のそばから、オニギリが消えていく。

面堂「まるで、こぶとり爺さん状態だな」

あたるのほっぺは、まるで
ハムスターのように膨らんでいる。

そんな面堂のつぶやきに、くすくす笑う母親。

面堂「あぁすみません、つい…」

諸星母親「いいのよ、それじゃあ面堂君も、早く食べないとなくなるわよ」

面堂「それじゃあ、いただきます」

諸星の母親、笑いながら部屋を出て行く。

諸星の母親が出て行って、やっと終太郎は正座をやめて足をくずした。

指で軽く、足先を押したりひっぱったりするのを見て笑うあたる。

明らかに、何かを仕掛ける前兆の笑いである。

諸星「面堂、ずっと正座してて、足しびれたろ?」

面堂「少しな、でも気にするほどのものじゃない」

諸星「ほ〜それはそれは」

返事をすると同時に攻撃を仕掛けるあたる。

面堂の足をおもいっきりつねる。

面堂「痛い!!何をするか諸星〜!!」

立ち上がって切りかかろうとするも足がしびれてふらつき、すっころんで倒れてしまった。

大笑いするあたる。

諸星「ひゃ〜やったやった。これでちょっとは、かたきがとれたな。」

面堂「何を子供じみたことやっとるか貴様は!!」

諸星「まぁまぁそう怒るな、たわいもない悪戯だ。これでも食って機嫌直せ。」

オニギリを差し出すあたる。ふてくされた顔でオニギリを受け取る終太郎。

面堂「作ってくれたのはお前の母親じゃないか」

諸星「細かいことは気にするな」

面堂「フン…今度やったら許さんからな」もらったオニギリを食べだす。

諸星(食い物で機嫌が直るとは、子供かこいつは…)

そう思っている自分が先に子供じみた、いたずらを仕掛けたことは棚に上げるあたる。

どっちもどっちである。(爆)

面堂「おいしい」

諸星「腹減ってたからだろ」と感想を述べつつオニギリを食べる2人。

そうして勉強会第1日目は終わった。


―2年4組の教室にて―

テストが近付くにつれ、諸星が放課後からガールハントも出来ず、

家に軟禁状態で勉強させられているという事態に、大笑いしていたクラスメートも

あわただしくなり、今まで休み時間は騒ぐだけだったが

あちらこちらでノートや参考書を、広げる生徒が目立ちだした。

一方勉強会は、1度あたるが逃亡を図ったが、面堂家私設軍隊までが出動し、大騒動の末、

結局は捕まりその騒動から町内会から諸星家へクレームがついたことによる母親の説教(怒り)もあり、

とりあえず長続きしないだろうという最初の予想に反して進んでいた。

パーマ「な〜あたるよ、勉強は進んでるか〜」

諸星「一応な…普段使わん頭を無理して使っとるから頭が痛くて気分が悪い、食欲がない」

そう言うあたる、
思いっきりがつがつと早弁している。

パーマ、内心
(どこがじゃ?)とツッコミ入れる。その食べっぷりは見ていて気持ちの良いほどだ。

ラム「ダーリン、意外とがんばるっちゃね、ウチはすぐ逃げるかと思ってたのに…」

しのぶ「ほんと、よくがんばるわね。少し見直したわ」

諸星「一度逃げたけど…捕まっちまってな、ラムの方は進んでるか?」

ラム「しのぶが教えてくれて、助かってるっちゃ」

しのぶ「私もラムに教えることで、自分の復習になるからお互い様よ」

パーマ「でもラムちゃん苦手な教科ってあるの?あっても学習マシンとかあってそれ使えば

簡単なんじゃない?」

ラム「確かにそういう便利な機械はあるけど、使ったらズルだから使わない事にしてるっちゃ、

今のところ古典が難しいちゃね…」

そこへ面堂が、書類のような物を2〜3枚持ってやって来る。

面堂「まだ昼前だというのに何故そう食える諸星?

お前の胃袋は
ブラックホールにでもつながっているのか?」

諸星「若者はハングリーなんじゃ、それよりなんだ?また作ってきたのか」

面堂「放課後までにやっとけよ、家に帰ったら採点するからな」

そう言って諸星に書類みたいな物を渡すと教室を出て行く。

パーマ渡された物を見てみる。

それは自作の手書き小テスト問題であった。

しかもわかりやすいように、どこの点に注目して問題を解いていけばいいのか書かれている。

パーマ「まめだなぁ…お前少しは感謝しろよ」

しのぶ、面堂の作った手書きのテストを、パーマから受け取って見る。

しのぶ「面堂君、家に帰ったらこれ作って後は寝るだけの生活してるのね」

パーマ「なんだ?」

しのぶ「だってそうでしょ、これ作るのに2時間はかかってるわよ。

わたし、前に黒メガネの人に聞いたことあるけど面堂君、

ペットの散歩で朝6時前には起きているって。逆算するとそんな感じでしょ?」

パーマ「放課後、勉強会して帰って小テスト作ってメシ食って風呂入って寝る。

確かにそのくらいかな…まめだなぁ」

あたるはそれは、自分にいい点を取らせようとしているからだと思う気持ちと

もうちょっとだけがんばろうかなぁ〜という気持ちが入り混じる。

そして最後のご飯の塊を口の中へ放り込んだ。


―静かな雨の帰り道―

今日は朝から雨が降り続いてまだやまない。

諸星「うっとうしいなぁ、少し寒いし…」

面堂「帰りだけでも送ってやってるんだから文句言うな。

それに…僕は雨の日は好きだ。2番目にだけど。」

諸星「1番目は晴れの日か?」

目をつぶっていた終太郎。ゆっくり目を開ける。

面堂「違う。…1番好きなのは雨が降らず、曇っていて台風が来る前の冷たくない風が

おもいっきり吹き荒れる日」

諸星「…変わってるな」

面堂「そうか?冷たい風は嫌いだ。台風の雨も嫌いだ。台風が来る前の暖かい風の日が好きだ。」

諸星「普通の雨は良くって台風の雨は嫌いなのか?どっちも同じの様な気がするけどな」

面堂「静かな雨が好きなんだよ。それに強い風が吹くと何かわくわくしないか?

何かが起こりそうな、高揚感が沸いてくる。」

諸星「う〜ん俺はガールハントの成功率が高くなる晴れの方が好きじゃ。」

面堂「晴れの日が嫌いなわけじゃない。でもたまに皮膚がぴりぴりするときがある。

夏の日は少し苦手だ。美人がいれば別だけど。」

諸星「俺は美人がいれば、晴れも雨の日も問題なし!」

そんなあたるの様子に、ため息をつく終太郎。

面堂「…明日からテストが始まるな。今日は日本史をするから」

諸星「明日からテストか〜。勉強会、長いようで短く、短いようで長かったな…

まるで永遠にずっと勉強会の日が繰り返し繰り返し続いていくような錯覚を

起こしかけていたもんな〜」

あたる、雨の降る暗い町並みに目を向ける。

いつも歩いて帰っていた道のりが、車からの流れる風景に変わっているせいなのか

普段の町並みと違って見える。
まるで友引町ではないような…

寒いからだろうか?少し身体が震えた…。

そうしてそんな会話をしているうちに諸星家についた。


―面堂家に残る記録と史実―

テストに出そうな部分をピックアップして勉強を進め、休み時間になってくつろぐあたる。

終太郎の方は休みもせずに、あたるが解いた問題の採点をしている。

諸星「あ〜もう歴史なんてどうだっていいじゃん」

面堂「歴史は大切だ。…ここに書かれていることは一応公的に認められているものだしな…」

最後の方のセリフはつぶやくような小さな声になっている。

しかしあたるにはちゃんと聞こえていた。

諸星「なんだよ一応公的には…って?」

面堂「…聞こえていたか…」

諸星「聞こえた。何だよ。公的には?って。まるでこの歴史が嘘みたいに聞こえるじゃないか?」

しばらく口をつぐんでいた終太郎。しかしあきらめたように言葉を続ける。

面堂「…嘘なんだよ…本当は…」

諸星「はぁ?何言っとんじゃお前は?教科書が違っとるわけないだろ」

静かにあたるを見据える終太郎。黒目がちの瞳は、まばたきもしない。

諸星「…マジかよ…」

面堂「…たとえばこの徳川家康が死んだ年、1616年4月となっているけど本当は前の年、

1615年5月の大阪夏の陣のときに死んでるんだ…」

大阪夏の陣。それくらいは自分でも知ってる。豊臣家と徳川家の最後の戦い。天下分け目の大決戦。

この戦いにより、豊臣家は滅ぼされ、徳川家は何百年という一つの時代を作り上げた。

その時代は平和をもたらしたが、外からの刺激が無く同時に怠惰をもたらした。

諸星「何で徳川家康の死んだ時がズレてんだよ?徳川って将軍だろ?

一番偉いんだろ?そんなヤツのことを、何で
面堂家が本当の記録として知ってんだよ?

面堂「当時、徳川家康が大阪夏の陣で死んだことを公表すると、また戦乱が起きるからだよ。

徳川の基盤が出来るまでは、家康に生きていてもらわないといけなかったんだ。

平和を維持するために。

1616年に死んだのは、家康の影武者だよ。日光東照宮に祭られているのもね。

…それに面堂家が本当の記録を持っていた理由は…

人形を操る人形使いが、舞台から顔を出すことは無いからだよ…。

そう静かに歴史を操っていたのは、面堂家だと遠まわしに答える終太郎。

面堂「
…面堂家が…

今までの歴史の中で奇麗ごとだけで済ませられたわけじゃない…。


その言葉を聞いて思いついたことを、考えなしにふと口にするあたる。

諸星「…そうか…お前、だからなのか?嫌だから身の回りの色を白にしてるのか?

メガネが言っとった本来のキューベルワーゲンの車にないカラーリンクの白。

今着てる学生服の白…黒を隠すための白…」

面堂はその問いかけに答えない。

…耳に聞こえる雨の音がひどくなってきたような気がする…


―生きているうちに歴史になった馬鹿なヤツ―


諸星「じゃ、じゃあ他にも嘘なのに、ほんとにされている記録があるって言うのか?」

面堂「まあね。日本だけじゃなく世界でも、歴史はしばしば力を持つ者によって都合のいいように

書き換えられてきた。でもそれは見方の一つでしかない。単なる一部分で全体じゃない。

見る者にとってはまるっきり違う。

それに歴史を作る当事者は、普通自分が歴史を作っているとは気づきもしない。

後世になって知らない誰かの手によって記録を作成されるだけのことだ。…でもお前は違う。

諸星あたる。お前はそろそろ自覚した方いい。歴史を作った人間であることを。

他の誰かの歴史を決定付けてしまった人間であることを。

歴史とは自分たちの行動の積み重ねの記録なのだから。」

諸星「何を言ってる…俺が歴史を作った?」

まるで詩の朗読をしているかのように、抑揚もなく言葉を続ける面堂。

面堂「普通は歴史を作る人間も歴史に翻弄される人間も皆、時の狭間に消え逝くのみ…

ただそれだけのことだった。でもお前は
生きているうちに歴史になったヤツなんだよ。

そして他の人間の歴史も決定付けてしまった。

ラムさんは遠く故郷を離れ、お前と地球で過ごす事、

しのぶさんは幼なじみで、恋人という立場から少し離れてしまう事、

メガネは生涯の一人の女性としてラムさんを見守る事、

そして僕は外の世界へ出てきた事…」

諸星「外の世界って何だよ…」

面堂「…覚えているか、勉強会の初めのごろ、お前は中学校で習うのは皆同じって言ったこと」

諸星「確かに言った。お前はなんか変に動揺してたな。」

面堂「そうだ。僕はあの時少し動揺していた。…何故なら中学校で普通に習う内容のことを

僕は…知らなかったから」

諸星「知らない?何で知らんのだ?多少の違いはあるとはいえ、習う事は全国ほぼ共通だろう?」

面堂「諸星…僕は学校は
友引高校が初めてなんだよ…

少しうつむいて、それから面堂は先ほど母さんが持ってきてくれた湯飲みにお茶を注いだ。

俺も何をどういえば良いのか分からず、その後同じように湯飲みにお茶を入れた。

お茶の白い湯気が立ち昇る。2人して静かにお茶を飲む。

そして面堂が続きをしゃべりだす。

面堂「…正確に言えば小学校には、しばらく行ったことがあるんだ。でもそこであることが起きて…

僕は面堂家の敷地内から出ることはなくなった。

親やおじい様、黒メガネたちが、どんなになだめすかしても、怒っても僕は外へ行かなかった。」

諸星「…聞いていいか?何があったんだよ?」

面堂「…盗難騒ぎがあってな…集金袋がクラス内で無くなったという…

でもみんな同じ条件だったのに、僕だけは疑われなくて他の子が疑われた。

僕がお金もちの家の子だったから。面堂家の人間だったから。

…結局は先生の勘違いで集金袋は見つかった。

だけどクラスの友達は、大人が見てないところでは僕をそれとなく無視するようになった。

気をつけて見ると僕に接する大人も僕を見るのではなく

僕の後ろにある面堂家を見ていて、僕自身を見ていてくれているわけではなかった。

だから僕は…
外の世界を捨てた。

それからしばらく沈黙が続き、俺は何をしたらいいのか、何をしゃべればいいのか考えようとした。

しかし考えがまとまらない。いったい何をどうしたら…。

そんな俺を助けるように、また面堂が静かにしゃべりだす。

面堂「…学校で習うはずの教育や一般的な常識は、家庭教師や黒メガネ達から習った。

だから外の世界との接触はライバルというか、顔見知りというかまったく物怖じしない

トンちゃん…幼なじみの水乃小路飛麿だけだった。あの日までは…」

不思議そうな顔をする俺に対して、少しだけ笑う面堂。

面堂「僕は普段TVは余り見ない。見るのは世界経済や自然動物番組くらいだ。

でもあの日…
世界は一つのことしか放送しなかった。

エイリアンとのファーストコンタクト。

世界を巻き込んだ鬼ごっこ。

お前とラムさんの鬼ごっこ。

外に興味を持つことがなかった僕が、興味を持ったあの日。

黒メガネに聞いて自分でも調べて、友引高校のことを知った。

面堂家のことなど、まったく気にしていない人々がいるのもはじめて知った。

さっき話したように、今まで僕に接する人は面堂家の力を恐れ、

また、その力を欲しがるような人々ばかりだったから。

今まで了子に学校は楽しいものだと聞かされても、特に何も感じなかったが

自分が行くようになって、楽しいと感じるようになった。無礼なヤツも多々いるがな。

僕はそれでも良かった。…そうして僕は友引高校に編入した。

今までの世界を壊したラムさんに会いに。

そう…、ついでに


生きているうちに歴史になった馬鹿なヤツの顔を僕は見に来たんだよ


そう言って笑う面堂の顔は、いつもの憎たらしい顔だった。

いつもなら自分のことを笑われて黙ってはいない。

木槌でぶん殴るのが当たり前だが今はなんとなく、そんな気分にはなれない。

面堂「…さてそろそろ帰るか、採点も終わったし、もう遅いからな。見直し、ちゃんとしとけよ。」

立ち上がり階段を下りていく。いつもは部屋の外までしか送らなかったが、最後の今日くらいは

玄関先まで見送ってやってもいい。玄関のところで面堂が振り向いた。

面堂「諸星…さっき言ったことは戯言だ。誰にも言うな。

誰かにしゃべったら、たた切ってやるからな」

諸星「…言わね〜よ。じゃあまた明日、学校でな。サンキュー。」

面堂「じゃあな、また明日。」玄関のドアが閉まり車のエンジン音が聞こえ、

そして遠ざかって行ってしまった…。


―テスト終了、みんなでご飯―


鐘が鳴り響き、テストが終わった。同時にクラス中で歓声が起こる。

チビ「ひゃ〜やった。やった。」

メガネ「これで地獄の責め苦からはおさらばじゃ、いざ自由の光へ羽ばたかん!」

ラム「ダーリンやっとうち、家に帰れるっちゃね。長かったちゃ。

テンちゃんも今頃UFOから家に帰ってるっちゃ。」

しのぶ「ねぇこれからみんなで、テストの打ち上げでどっか食べに行かない?」

諸星「いぃねえ、みんなで行こうぜ。メガネ、面堂。」

面堂「僕のペットたちと同じ物が入っている食物を、知らんぷりして僕に食わすなよ。」

「メシ〜メシ〜」「腹減った」チビとカクガリは踊っている。

そんな中、諸星に近付くパーマ。小声で耳打ちする。

パーマ「な〜あたる。今回のテスト、正直どうだった?」

諸星「さぁ、よくわからん。自分なりにがんばってみたけどな。」

パーマ「結果が悪かったら面堂に半殺しにされるかもしれんぞ。」

諸星「そんときゃ逃げるさ。…さぁみんな、食べに行こうぜ」

…俺は今回の勉強会で実は一つ好きな教科が出来た。でもそれはみんなには内緒のことだ。

そしてみんなでいっしょに教室を出てご飯を食べようと席をたった。

この行動も歴史を作る積み重ねの一つの出来事。

一つの歴史を形作ることに違いないこと。

俺はそう思った。



終わり。


面堂「どうだ。わかったか、僕が友引高校へ来た理由は?」

諸星「へえへえ、わかりましたよ。」

面堂「いいか、絶対に他の奴にはしゃべるなよ。」

諸星「分かったって。しつこいヤツだな。それより面堂。次回の話、予告はどうした?」

面堂「次回は僕の友引高校での初女装の話だ。今回少し暗かったからな。

次回は明るめにいこうと思っとる。」

諸星「あのときの話か…俺は…俺は…あの時こともあろうに女装したお前を女の子と

間違えてガールハントしてしまった…この俺が…この俺がああぁぁ!!!」

面堂「恨むのなら見極めが出来なかった自分の未熟さを恨め。愚か者!泣きたいのは僕の方だ。

よりにもよってお前なんかに抱きつかれるなんて。しかもあの後メガネの長い説教を聞かされて

ランクを落としたメイクと赤い趣味の悪いドレスを着ることを無理やり承諾させられたんだぞ。」

諸星「お前、あの時にはもう
ノリノリだったじゃないか?」

面堂「やかましい。とりあえず次回予告題名は

『通称パーマと呼ばれる俺が決めたこと』で、いくからな。

諸星「今度の主役はパーマか?」

面堂「主役は僕だ。見れば分かる。」

諸星「俺の出番は?」

面堂「お前の出番など無きに等しいわ、馬鹿者。」

諸星「
面堂のバッキャロー、アホ、間抜け、暗所恐怖症の閉所恐怖症ぉぉ!!

面堂「諸星…そんなに刀の錆になりたいか?」

諸星「
お兄さん、素敵。カッコいい。

面堂「変わり身の早いヤツだ。まぁいい。」

諸星「じゃあ次回『通称パーマと呼ばれる俺が決めたこと』で、よろしく。」

面堂「僕のセリフを取るな、愚か者!!」



うっひゃめより.
小、中学校、義務教育だろう?というツッコミはしないでね。
地獄の沙汰も金次第と思ってて下さい…(笑)
私としては、若が2年4組のクラスメート以外で
誰かと肩を並べている姿っていうのは、たとえそれが高校以前だとしても
まったく想像できなかったもので…アニメでも同じ転校生である竜之介でさえ
回想シーンで小、中学校シーンがあったのに、若にはまったく無かったし…
ちょっと暗い話で、嫌になった方はごめんなさい。