―その物体の名は?―

終太郎「やっと終わったか…」

そう、やっと演劇祭が終わった。

カルメンを題材にした劇は、練習中は色々と不祥事らしき事があったが

何とか本番はたいした騒ぎもなくやり終えることが出来た。

ラムさんやしのぶさんの衣装がとても可愛かった。

面堂家写真班はうまく撮れたと言っていたから帰ったら早速見ることにしよう。

そんなことをぼんやり思いながら帰る準備を見ていると諸星、ラムさん、しのぶさんが寄ってきた。

しのぶ「面堂君もう帰るの?これからうちあげに行くんだけど、面堂君も行かない?」

ラム「終太郎、うちらといっしょにご飯食べに行くっちゃ」

あたる「面堂、監督命令だ。おごれ!!」

終太郎「ラムさん、しのぶさんの分はおごってもいいが、何でおまえの分まで

おごらなければならんのだ諸星?それに監督命令って何だ?」

あたる「演劇祭。年に一度しかない重要度の高いイベントだ。

出演できる者は数少なく他の者達に羨望のまなざしで見られる。

そして君たちはその栄えある主役。俺はその上を行く監督だ、この権限は家に帰るまで続く。

演劇祭が本当に終わるのは家に帰り着くまでだ。」

終太郎「メガネのようなこじ付けを言うな。」

とたんにあたるのキリッとした表情が崩れて、終太郎に抱きつく。

あたる「終ちゃ〜ん。お願〜い。おごって〜。」

終太郎「馬鹿者。いきなり卑屈になるな。おごってやるからくっつくな。」

あたる「ラッキー。この俺がゴージャスな店を紹介するぜ」

ラム「ダーリンの言うことは信用できないっちゃ」

はっきり言って諸星なんぞにおごりたくはなかったが、演劇祭の前に僕は諸星の母親には借りがあった。

しょうがないから付き合ってやることにした。

しかし…やはり付き合うべきではなかったのかもしれない。

あんな物を、あんな不気味極まりない物体を見るとわかっていたならば…。

店は創業30年という年季が入った店だった。

僕は『どこがゴージャスなんだ?やっぱり諸星の感覚はどこかおかしい。』

そう思いながらのれんをくぐった。

しのぶ「ここに来るのも久しぶりね。」

ラム「うちは2度目だっちゃ」

あたる「ここは老舗だけあって他の店より断然うまいのだ。」

それぞれメニューを見て注文している。僕はよくわからなかったので、しのぶさんに選んでもらった。

品物が来るまで演劇祭の反省点とか、いろいろ話している間に僕は店を少し観察してみた。

店の中は何か食べ物の焦げた匂い。

天井の照明は蛍光灯が1,2本切れかかっている。はげた宣伝ポスター。テーブルの前には鉄板。

終太郎『なんだ…ゴージャスって言うから何かと思えば、お好み焼きか。』

お好み焼きなら前に一度、諸星たちと他の店に行ったことがある。

切りきざんだ野菜や肉に、小麦粉と卵を混ぜて鉄板で焼いたおやつ的な代物だ。

あの時、諸星は知らない僕に、ペットと同じタコの足を混ぜた物を知らんぷりして、

食わせようとした時がある。

間一髪でそのことに気づき怒って諸星に切りかかったが、

手元が狂い鉄板ごと台を、真っ二つに叩き切ってしまい、

出来かけていたラムさんや、しのぶさんのお好み焼きまで、吹っ飛ばしてしまった経緯がある。

そして原因は明らかに諸星が悪いのに、お好み焼き屋さんに叩き切った台の弁償をさせられたのだ。

その時の事を思い出し、少し腹が立ってきたが今回材料はしのぶさんに選んでもらったから

僕が怒るような事態にはならないだろう。

そんなことを思っていると、具材がテーブルに運ばれてきた。

諸星「お〜、やっと来たか」

ラム「ダーリンうちに七味を取ってほしいちゃ」

しのぶ「鉄板熱いから気をつけて」

それぞれ3人何か具材でドーナツの輪のような、ものを作り出す。

その真ん中には、ほとんど液体といって良いような代物が…。

これはいったい何なのだ?お好み焼きかと思っていたら違う物だ。

しかもまるで嘔吐物のような、気色悪いことこの上ない物体だ。

一般庶民というものは、こんな不気味極まりない物体を食すのか?

なんか腕に、寒イボが浮かんできたのがわかる。

諸星「面堂…なんか目が点になっとるぞ?」

ラム「固まってるっちゃ」

しのぶ「どうしたの?面堂君」

諸星「食わんのなら俺が食う」

諸星の無礼なものの言いように、とりあえずカルチャーショックから立ち直り

日本刀を突きつけて諸星の行動を阻止しておいて、しのぶさんにこの物体について、聞くことにした。

しのぶ「これはね、もんじゃ焼きっていうものなの、昔から下町には馴染み深い、食べ物なのよ」

終太郎「しかし、これはどう見ても嘔吐ぶ…」諸星があわてて僕の口をふさいだ。

あたる「面堂、その言葉はここでは禁句だ。」

ラム「終太郎、大丈夫だっちゃ、うちも初めて見た時は地球人ってこんな物を

食べるのかと思ってカルチャーショックを受けたけど、見た目が悪いだけで

危険なものじゃないっちゃ、うちにとって味は薄いけどね」

ラムのもんじゃ焼きは七味の赤い粉まみれになっている。

しのぶ「そう、だから安心していいのよ」

信用できる2人の説明により、とりあえずそのもんじゃ焼きというのを食べてみることにした。

あたる「この小ベラをうまく使えるかどうかが、[通]かどうか見分けがつく、ポイントなんだよなぁ〜って面堂なんだ?

その食い方は?」

ラム「変わった食べ方だっちゃね」

しのぶ「どうしてそんな分け方してるの?」

僕は平べったくなんとなく固まったもんじゃ焼きという物体を、2センチ角ほどに切り分けていた。

終太郎「ん〜ちょっと…」

あたる「ちょっとなんだよ、結構いけるぜ、安心しろよタコは入ってないから」

終太郎「そうじゃなくって…」

あたる「そうじゃなくって?」

終太郎「もんじゃってどれかな〜と思って。」

一瞬その場が爆発したようになったのは気のせいだろうか?

目の端にチェリー(口に何かをくわえて膨らんでいる)を捕らえたと思ったのも

つかの間、そのまま吹っ飛んでいったのは気のせいだろうか?

その次には奇妙な緊張感というか静けさが漂う。

諸星としのぶさんは、必死に笑いをこらえているのがわかる。

ラムさんは不思議そうな顔をしている。なんなんだ一体?何がおかしいのだろうか?

とうとう諸星としのぶさんが笑い出した。

終太郎「何がおかしい諸星!」ラムさんも諸星に食って掛かる。

ラム「終太郎の言うとおりだっちゃ、そういえば[もんじゃ]ってどれだっちゃ?

諸星は笑い転げたままだ。このまま笑死しそうな勢いだ。

終太郎「しのぶさん、[もんじゃ]ってどれなんです?笑ってないで教えてください」

しのぶ「それはね…」

しのぶさんの説明により大体のことはわかった。

[もんじゃ]という物体そのものは存在しないということを。

終太郎「じゃあ何故そんな名前がついたんです?[もんじゃ]という言葉の起源は?

意味は何ですか?」

しのぶ「そういえば私、知らないわ」

あたる「俺も知らん」

ラム「宇宙人が知るわけないっちゃ」

静まり返る一同。

終太郎「じゃあいったい[もんじゃ]って何なんだー!!!?」

僕は気になっておそらく夜眠れないほどに悩むだろう。

黒メガネたちが知っていれば良いが…

それもこれも諸星が奇妙な店を選ぶからだ。

もう絶対に諸星の言うゴージャスな店なんかには行きたくない。

僕は心に誓った。



終わり。

いかがだったでしょうか?ちなみに私はもんじゃ焼きの実物を、見たことはありません。
なんとなく、こんな物だというのはわかりますが…
だから終太郎の「じゃあ、いったい[もんじゃ]って何なんだー!!!?」
という叫びは私の叫びでもあります。(笑)


―もんじゃの起源―子供が文字を具材で表しながら焼いていたのが始まりらしい。
文字焼きがいつしか、もんじゃと変化したと、もんじゃ焼きHPにて説明あり。