僕の新世界での日常の中の静かな一日


…パチっと音がしそうなくらい勢いよくなんだか目が覚めた。

枕元の時計を見る。

いつもより早い。

まだ学校に行く準備をするのには早すぎる時間だ。

この季節、

暑くも無く寒くも無いちょうど良い時間は貴重だというのに、

まどろむ朝を楽しむ時間は短いというのに、

何故こんな時間に目が覚めたのだろう?

もったいないような気がする。

もう少し…もう少し時間まで眠りたい。

…だめだ…完全に目が覚めてしまった。

上半身を起こす。

カーテンの隙間からのぞく外はうっすらと朝になりかけ、

昨日降っていた雨が朝露となり

植物に光の粒をのせている。

何故こんな時間に目が覚めたのだろう?

もう一度、自問自答してみる。

面堂「…そうか…今日は当番の日だった。」

日直の当番。

花瓶の花を変えて水を入れ、毎授業ごとに黒板を消したり、

プリントをコピーしたり配ったりとか、雑用係の日だ。

黒メガネには当番だから早く起こすように伝えて、

同時に目覚ましをセットにはしていたが、

それよりも時間が早い。

面堂(まぁいいか。花を選ぶついでにドーム内を散歩すればいい)

自分が今回眠っていた場所は

コテージ風の別荘みたいな面堂邸内でも奥深いところだ。

ここからなら花のドームにも近い。

起き上がって着替えて支度すると

外の一階のベランダデッキから階段を下りる。

寒い。

今まで暖かい所にいた為、肌寒い。

少し吐く息が白く、すぐ透明になる。

頭がスッキリさえてくる。

暖かな怠惰な眠りもいいが、

こんな寒々としたピンっと張った空気もたまには、いいものだ。

後を振り返る。

黒メガネが起こしに来ても自分がいないことに気づけば

直ぐに探しに来るだろう。

花のドーム。

自分が好きな花を集めた巨大な観葉植物専用ドームだ。

世界中の気候風土に合わせて区分けされ、

温度、湿度、日照時間、肥料など

コントロールされて、ほぼ1年中花が咲いている。

コンピューターに管理されている部分が多いが

生きているものは微妙なところ、

最後は人の手によるところも大きい。

面堂家の庭師の菜造じいの才覚の助けのおかげだ。

孫と間違えて
おもいっきり抱きついてくるのはちょっと嫌だが…

ドーム内に入る。

花の香りと雨の匂いが、ドッと押し寄せてくる。

雨が降っていたから天井の開閉式部分が開けてあったのだろう。

中の植物に朝露が光っている。

面堂(何の花にしようか…

   前にチューリップを持っていったら2時間もしないうちに

   教室に乱入してきた

   ジャリテンに燃やされたからな…

   せっかく持っていったのに…)

ドーム内には池もある。

池にはハスの花が群生して咲いている。彼岸の果てと言うのは、こんな感じだろう。

池の周りをゆっくり歩く。

桃色のハスの花がとても綺麗だ。

一瞬ハスの花でも持っていこうかとも思ったが、

仏門ではないが

神道系の巫女であるサクラ先生のいる保健室ならともかく、

2年4組の教室では雰囲気的にそぐわない。

面堂「しかし叔父が仏教系で、

   姪のサクラ先生が神道系の巫女ってどういうことかな…

   今度聞いてみようか…」

花瓶の大きさ等も考えて背の低めの花、

とりあえず薔薇にすることに決めた。

薔薇園に入り気合を込めて刀をはしらせる。

薔薇の花は花びら一つ飛び散りもせず、全て腕の中に納まった。

花束を抱えトゲを抜きながら、来た道を戻る。

面堂(もっと時間があれば、もう少し長く朝の散歩も出来るのに…)

そんなことを思いながら歩いていると黒メガネが駈けて来た。

一礼する黒メガネ。

黒メガネA「若、おはようございます。

      ベッドにいらっしゃらないので、びっくりしました。」

面堂「すまんな、今日持っていく花は決まった。

   残りのトゲは抜いておいてくれ。」

黒メガネB「若、気象班の報告によると、

      これから今日は雨になるそうですよ。

      今日はパラシュート落下登校は無理ですね。

      学校上空に到着ごろ雨が降れば服が、濡れてしまいますから。

      飛行場には中止連絡を入れました。」

空を見上げ、つられて黒メガネたちも空を見る。

さっきまでは雲間から光が差し込んでいたのに、

また厚い雲に空が覆われてきている。

…ゴンゴンゴンゴン…

低い機械音が聞こえ振り向くと、ドーム上部の屋根が閉まっていくのが見えた。

オートセンサーが空気中の水分量を感知して、

もうドーム内には水は必要ないとコンピューターが判断したのだろう。

周りにある他のドーム群の屋根も次々閉まっていく。

黒メガネA「朝のお食事の用意はすでに出来ております。」

黒メガネB「雨が降り出さないうちに邸内に戻りましょう。」

朝の食事風景、自分の他には黒メガネしかいない。

今日はまだ少し早いので家族はまだ寝ているか、他の自分の家で食事しているのかもしれない。

なんにせよ朝から家族全員がそろうのは珍しいことだ。

そんなことはめったに無いが…。

食事が終わってトゲをぬいた薔薇の花束を

黒メガネから受け取り、

白のキューベルワーゲンに乗り込む。

車内に薔薇の香りが広がる。

面堂(着いたら花を生けて、

   黒板のチョークの補充をしなくちゃな…あとは…)

そんなことを考えながら窓から外を見る。

報告にあったように、雨が少し降り出したようだ。

昨日の雨の名残の水たまりを、跳ね飛ばしながら車は進む。

夕方になると、水たまりはもっと大きくなるだろう。

道路端、ランドセルに交通安全の黄色のカバーをつけた

背の小さな小学生たちが

手をつないで並んで登校している。

自分はあんなに並んで、誰かと学校へ行ったことは無い。

終太郎は内心、自嘲気味に笑った。こんなどこか感傷的なことを想うなんて。

雨がそう思わせるのだろうか…

面堂「…今更だな…」

運転している黒メガネ「若?何かおっしゃいましたか?」

面堂「何でもない」

そして当番には、早すぎもせず遅れもせずに友引高校へついた。

当番の仕事をしていると

クラスメートが教室へ入ってくる。ざわめきが多くなる。

「オーッス!」「お早よ〜」「昨日のあの番組、面白かったね〜見た?」

「おはよう面堂君」「面堂君おはよう」

圧倒的に挨拶してくれるのは女生徒からだが、

たまに「オッス面堂!」「当番か〜?」

「あいかわらずマジメじゃ〜ん」と

男子生徒からも挨拶が来る。

転入直後は慣れなかったが、今ではこのざわめきはけっこう好きだ。

「おはよう面堂君」「おはようだっちゃ」「よ〜面堂元気してる〜?」

しのぶさんとラムさんと諸星だ。

しのぶさんはともかくとして、諸星が

遅刻しないのは珍しいほうだ。

そして大体において、そのとばっちりを受けるというか、諸星に合わせてしまうラムさんも。

挨拶を交わし、そして授業が始まる。現国。数学。

1,2時間目は比較的静かだった。

せいぜい隣同士でこっそりしゃべりあうとか、消しゴムのかけらを飛ばして遊ぶヤツとか…

教科書を広げて机の下でマンガ読んでるヤツとか…あと授業間の休み時間は馬とびしてるとか…

よくまぁ
いつの時間も惜しんで遊ぶクラスメートだ。

だからテスト前になって慌てふためく者が多い。

もちろん自分以外にも

まじめに授業を受けているクラスメートもいる。

しかし大体においてそのほとんどは女生徒だ。

努力をまったくしない男どもが

間際になって騒いでも僕は知らん。

自業自得だ。

3時間目。科学の授業。

教室を移動して白衣に着替えグループに分かれる。

僕は理科の授業は生物も好きだが、

それ以上に科学も好きだ。

特に実験は面白い。

もちろん学校で習う科学の授業と

僕が家庭教師について家で勉強している時の内容とは違いすぎるけれど…

ボンッ!!小さな爆発音がする。

隣のメガネ達のグループだ。

メガネ「
この実験の小さな一歩は人類の化学の発展の為の

    
偉大なる大きな一歩なのだ〜!!!

    
うわはははははははは!!

カクガリ「いいぞ!」

チビ「いよっ。大統領!」

なんだか
おもいっきり悪人の笑いだ。

目がすわってしまっている。

演技過剰だ。

周りの同じグループの男子は喜んでいるが、

女子生徒はふくれっつらをして怒っている。

それはそうだろう。

メガネのメガネは黒いすすがついてサングラスのようになっており、

顔もすすで真っ黒こげだ。

髪もところどころ縮れている。

はっきり言って
アフロ状態だ。

同じようにこんな状態になって喜んでいるのは、
メガネとその周辺のやつらしかいない。

だがこの程度ならば

いつもの日常に比べたら微々たる被害だ。

…しかし…この薬品のどこをどう配合すれば、

爆発を起こせるのだろう?

まだほとんどは蒸留水でただの水だというのに?

科学…物理の得意な僕がいくら考えてもわからない。

何故に怪我をしないのかということよりも、そっちの方が不思議なことだ。

4時間目。

英語。

温泉マークの授業。

4時間目ともなると早弁をする生徒が目立ってくる。

昼前に弁当を食べてお昼休みになったら、

購買や
外へ買い食いに出かけるという寸法だ。

こういう不謹慎なやつらは朝ぎりぎりまで寝ていて、

朝食を取る時間が無いのに違いない。

もっと早く起きればいいものを…。

そういえば職員室で

生徒がお昼休みに買い食いに出かけるため

学校を抜け出すということが

問題提議されたと影の生活指導部から小耳に挟んだ。

もしかしたら学校側から

何か動きが近いうちにあるかもしれない。

そのときは影の生活指導部にもお呼びがかかるだろう。

温泉マーク「次、面堂読んでみろ」

面堂「はい、Since it is ", if it thinks that this

   Milky Way is a rivertruly,

   All the small stars of the each of will be

   also equivalent to the sand there of the river,

   or the grain of a gravel.

   Moreover, if this is considered to be the

   flow of big milk,

    a strong resemblance to the

   Milky Way is born more.(※1)」

温泉マーク「よ〜し、もういいぞ。次は諸星、読んでみろ。」

諸星「え、え〜と…」

珍しく眠りもせず、早弁の最中でもなかった諸星だが、

日ごろの行いが悪いせいで、

ほとんどまともに読むことが出来ない。

諸星「Since …it is ", if …it thinks…

   えーっと… that this Milky Way……」

こんなたとたどしい読み方なら、そのうちまたしても補習か、

あるいは宿題どっさりあるに違いない。

僕一人がんばっても、温泉マークは考えを変えないだろう。

どうせ宿題なんか諸星がしてくる確率は低いから

小テストの方がまだいいのに…。

しかし、そんな思惑は外れて宿題は出なかった。

補習の方はいずれわからないが…。

その代わり温泉マークからは用事を言いつけられた。

温泉マーク「面堂、明日までに父兄に配るプリントを

      人数分コピーしといてくれ」

面堂「わかりました」

こんな事は本来、

諸星の仕事だが委員長の癖に
仕事をさぼって逃げる為、

雑用はいつも副委員長の僕に回ってくる…。

こんな事ならさっさと委員長の地位を渡せばいいものを…

4時間目終了後、

黒板を消していると黒板消しを置いたとき

パキッと軽い音がして

手を見ると打ち所が悪かったのか、

つめ先が少し割れて無くなっていた。

残されたつめ先がカマイタチに逢ったように、逆半月形に切れたようになっている。

そんなに長く伸ばしていたつもりはなかったのだが…。

諸星「お〜い。面堂、机移動させるぞ。」

ラム「いっしょにご飯食べるっちゃ。」

しのぶ「手伝おうか、面堂君?」

そうだった。

お昼休みに今度の週末旅行はどこへ行くか、

相談しようと言っていたのだった。

そんな様子をうらやましげに見るメガネたち4人組。

彼らにはバイトがあるので行ける時と行けない時があるらしい。

今回も行けないようで

少しうらやましそうにこちらを見ている。

諸星「穴場を見つけといた。静かでいいところだぞ。」

しのぶ「また静かなところ?どうせ
何にもないんでしょ?」

しのぶ、「何にも」というところに力を込める。

ラム「たまにはもっと面白いところへいくっちゃ」

諸星「
何を言う。

   
日々の生活に疲れ、英気を養うために静かな場所へ行こうと

   しとる俺の配慮がわからんのか?


僕はキッパリ言ってやった。

面堂「
どこが配慮だ?

   金がないからいつも安上がりで済まそうと

   行楽地を避けるくせに。

   第一、生活に疲れってなんだ?

   普段の生活はガールハント三昧なのに、

   どこをどうすれば疲れるというのだ。

   ガールハントはお前の活力元だろう。


僕はお弁当はちょっと後にして、

欠けた爪に粉が飛び散らないようにゆっくり

エチケットパックに入っていた、爪ヤスリをかけながら答えた。

それにしても口いっぱいに、

ご飯が詰め込まれているのによく諸星は流暢に

しゃべれるものだと内心、変に感心する。

これがチェリーだったら

見るに耐え難くあふれるほどご飯が詰め込まれ、

しゃべろうにも

意味不明の発音でまったく聞き取れないだろうに…。

言葉がわかるだけ、

まだ諸星のほうがましというものだ。

諸星「じゃあお前、どこか候補があるのかよ」

僕は机から資料を取り出した。今回は僕の案を通させてもらおう。

休日が長ければ海外でもいいのだが、

週末だけともなると移動に時間が掛かる為

やはり国内の面堂家所有の別荘がいいだろう。

前に諸星が案内した行楽地?は、

ほんとに何にもなくて到着後

ご飯を食べた後に散歩とかトランプゲームするくらいしか

特にすることがなかったのだ。

その日は学校創立記念日で平日だったので、

次の日休むわけにもいかなかった。

だから一泊ではなく、一日単なるハイキングだったので、

そんなに長時間退屈だったわけでもなかったのだが…

あれでは面堂邸内をハイキングしてもよかったんじゃないかと思ったくらいだ。

自分でも行ったことが無い場所とかあるし…

唯一、

面白くまた面白くなかったのは電車に乗ったことぐらいだ。

一応面堂邸内にも電車は走っているが、

それは物資輸送用が主なコンテナ列車が

面堂邸内だけの路線で走っている。

あとは1路線だけ朝と夕方だけ邸外に住んでいる

使用人達の出勤用に普通列車が1〜2本外界と邸内を結んで走っているだけだ。

もちろん関係者以外の人間は列車には乗れない。

邸内には面堂財閥が進めている

いろんな分野の研究施設などもあり、

産業スパイや非常識なマスコミ関係者が入らないように

警備も万全な体制を敷いているからだ。

面堂家特製パスが無ければ入れないし、偽造も出来ない。

だから自分の家に

列車が走っているとはいえ、利用したことはない。

以前黒メガネに聞いたラッシュとかいうものを

体験できるかと楽しみしていたのだが、

平日、一般の朝の出勤ラッシュがあんなに

ものすごいものだとは夢にも思わず、

四方八方から
ぎゅうぎゅうに押し潰されて

5分もしないうちに

僕は感情を爆発させそうになってしまった覚えがある。

もちろんそんな狭い場所で刀を

振り回すわけにもいかず、何とか抑えたが、

もう2度と普通の列車ならともかく、

あんなラッシュ時の電車には乗りたくない。

しのぶ「へぇ〜ここ面堂君の持ってる別荘なの?」

諸星「面堂の別荘〜?」

嫌そうに資料を見る諸星。

横からのぞく、しのぶさんとラムさん。

自然と両手に花状態になっている。

なんか腹立つ。

C4爆弾…

いわゆるプラスチック爆弾でも諸星家に

送りつけてやろうかとも思ったが、

やっぱりやめとこう。

ラムさんが巻き添えになってもいけないし、

第一諸星にそんなもの利かない可能性大だ。

核攻撃を受けても
       平〜気かもしれないヤツだから。


面堂「たまにはいいだろう?

   送り迎えはヘリがおこなう。

   近くには森や川があり、キャンプにはもってこいだ。

   別荘内には調理場もあるが、

   外でバーベキューをしたり釣りに行ったりできる。

   私有地だから、

   部外者が大勢入って来ることも無い。

   丘を越えればそこの村…役場が管理しているのかな…

   とにかく牧場があって馬で

   森の中を散策することも出来る。」

しのぶ「あら牧場近くにサイクリングコースもあるのね。

    馬って少し怖いから

    行くとしたらサイクリングにしようかしら?」

面堂(
マズイ!

僕は内心あせった。

自転車…僕は自転車に乗ったことが無い。

送り迎えはいつも車かヘリだ。

戦闘機や戦車なら乗れるのに。

どうしよう…。帰ったら練習しなくては…。

こんなことがバレたら笑われる…。

そこへラムさんが助け舟を出してくれた。

ラム「せっかく行くんだったら馬の方がいいっちゃ。

   めったに無いことだし、

   自転車にはいつでも乗れるっちゃ」

しのぶ「そうねぇ」

諸星「俺も牧場の方へ行くんだったら馬にするぞ、

   確かにめったに無いことだしな。

   それに散歩用にちゃんと調教されているんだろ?

   怖くないよ。

   それに
面堂のおごりだろ?」

面堂「何故そんな話になるのだ?」

諸星「お前が提案したんだろ?

   それとも何か?

   
やはりここは俺の情報網が捕らえた

   静かな場所が良いと…


面堂「あ〜もうわかった。

   何かおごることがあったらおごってやるよ。」

諸星「
やったぁ。だから終ちゃん好きよ。

諸星は小躍りしている。

少し腹は立ったが、

おごるといっても行き帰りはヘリだし、

食料や釣り道具は事前に

運び込んでおけばいいし、

周りにはコンビニがあるわけでもないし、

お金を使うといっても馬のレンタルぐらいなものだ。

ここで文句を言って僕の提案が

白紙撤回されてはたまらない。

また運悪く、あんな
ぎゅうぎゅう詰めの列車に乗り込み、

押しつぶされ、

何も無い静かなへんぴな場所
へ連れて行かれたら、

つまらない日を過ごすことになる。

後で黒メガネに連絡して別荘に、食料や、

何か面白いビデオやTVゲームソフトとか

色々準備させて運ばせなくては。

それと帰ったら一応、

自転車に乗る練習をするということも。

とりあえずお昼ごはんを食べながらの、話し合いは終わり、5時間目は音楽だった。

音楽教室に移動して音楽合唱発表会の

予定を音楽担当の先生から聞く。

まだだいぶ先の話だが、

ピアノを弾く人などは、早くから決めて練習時間を余裕で

とっておかないと本番で上手に弾けなくなる。

ピアノを弾ける人はこの2年4組では余りいないが、

とりあえずしのぶさんに決まった。

ちなみに僕もピアノを弾ける。

いつかしのぶさんと連弾を弾いてみたいものだ。

あとは自分たちの声の高低を発声により

先生に決めてもらい、立ち位置を決めた。

僕と諸星はテノールで

比較的前の方の隣同士の位置だった。

諸星のダミ声をこれから音楽の毎時間、横で聞かねばならないのかと思うとうんざりする。

パサッ。

前髪が落ちてきた。

朝から時々落ちてきてうっとうしい。

もう髪も少し切ったほうがいいかもしれない。

ラムさんはソプラノかと思ったが、

発表会の日は弁天様たちと

どうしても避けられない予定があるということで

今日はしのぶさんの楽譜めくりの

サポートをしていた。

どんな歌声か聴いてみたかったが、

あきらめるほか仕方ない。

最後の授業は社会、歴史だった。

僕は余り歴史なんて大まかなことだけ

勉強すればいいと思っている。

歴史など伝言ゲームと同じだ。

ただ簡略化された表面的なことしか伝わらない。

『勝てば官軍』ということわざがある。

歴史は勝者によって

いくらでも改変することは可能だからだ。

だからみんなは歴史など習っていても、

これらは本当の事なのかと本気で信じていて

疑わないのだろうか?と思う時さえある。

しかし…
面堂家の人間であるこの僕が

そんなことを思うなんて、どうかしている…


今日の授業は終わった。

掃除当番でない者は、帰り支度を始めている。

諸星「あ〜やっと終わった。腹減った。

   
牛丼は昨日食ったから、今日はマクドにするか。

   
マクド行って腹ごしらえしたら、

   
ガールハントじゃあああぁ!!

ラム「ダーリン!!」

しのぶ「あたるくん、いい加減にしときなさいよ」

諸星「それでは皆の衆、明日までしばしの別れじゃ!!さらば!!」

パーマ「お〜じゃあな、あたる。」

チビ「バイバ〜イ!」

メガネ「ラムさん、それではまた明日。お会いしましょう。」

「バイバーイ」「じゃあな〜」「サヨナラ、また明日ね」

別れの挨拶をするクラスメートたち。

諸星なんぞ、今日は宿題が出なかった分、

帰りおもいっきりガールハントして

帰るつもりらしい。

ラムさんに阻止される確率が高いのに

懲りないヤツだ。

学習能力が無いと言ってもいいかもしれない。

しかし
『マクド』ってなんだろう…?暗号みたいだ。

何か食べ物屋さんらしい事は判るが…。

一般市民が使う言葉辞典とかあればいいのに…。

とりあえず僕は掃除当番ではないが、

温泉マークに言いつけられた用事があったので

職員室へ行きコピー原本を受け取り、コピー室へ向かった。

コピー室には誰もいない。

渡されたプリント原本を見ると

PTAから父兄へのお願いというものだった。

内容はたいしたことは無いが、あったとしても親に渡したところで、

両親が動くことはめったに無い。

以前参観日に母上がいらしたが

僕は直前まで本当に来るとは思っていなかった。

あの時は嬉しさよりも驚きの方が大きかったが…。

とりあえず両面コピーにする。

途中紙をひっくり返して

入れ替えてコピーしなくてはならないが、

「そのほうが紙一枚で節約できるし

     表裏の上下逆にもならないから」と、

しのぶさんに以前、コピー機の扱いを教えてもらった時に言っていたから。

面堂家次期当主が

こんな地味な用事をやっているというのも

不思議といえば不思議な事だ。

友引高校に来なければ、こんなことは一生しなかっただろう。

手を軽く髪にやり、パラパラと前髪を下ろした。

トレーに積み重ねられていく書類を

ぼんやり見ながらそんなことを思っていると、

窓の外、午後から止んでいた雨がまた降り出したようだ。

水たまりが大きくなり、

傘をさして下校していく生徒が見える。

面堂「明日も雨が降るのかな…別に雨は嫌いじゃないけど…」

窓の外のガラスを伝う水の流れが速くなっていく。

人影がぼんやりと輪郭を無くして消えていく。

部屋が少し暗くなっていく。

軽くため息をつき目を向けると

いつの間にかコピーが終了していた。

後は温泉マークに渡して帰るだけだ。

僕は黒メガネに連絡を入れた。

面堂「終太郎だ。30分ほどで下校できる。迎えを回せ。」

左手で髪をザッとオールバックに戻してから

コピー室を出て職員室へ行き、

温泉マークにコピーを渡す。

教室へ戻ると掃除はもう終わったのか誰もいなかった。

カバンが机の上に2〜3個置いてあったが

これはクラブ活動をしている

生徒のカバンだろう。

こっちのは確かパーマのカバン…か?

バレーボールは続けているらしい。

外へでると迎えが待っていた。

走り出す白のキューベルワーゲン。

面堂(帰って何をしようか…宿題でなかったからな…

   シューティングゲームの続きでもやろうか…

   でもやっぱり自転車に乗れるように

   特訓した方がいいかもしれない。)

目をつぶって考えていると前に軽くつんのめった。

目を開けると交差点の赤信号で止まったらしい。

横断歩道で小学生とその母親が傘をさして並んで歩いている。

ふと歌を思い出した。

「雨、雨、降れ降れ母さんが〜蛇の目(※2)で、お迎え嬉しいな〜」

小さいとき黒メガネが教えてくれた童謡だ。

自分に母親が迎えになんて来たこと無い。

迎えに来るのはいつも黒メガネだ。

迎えに来てくれたら、今の僕は嬉しいだろうか?

信号が青になり水たまりを、

跳ね飛ばしながら車が走り出す。

面堂「別に急いでないからスピードを落とせ。水を散らすな。」

そしてしばらくして

面堂邸内の僕個人の家に車が着いた。

中から何人かの黒メガネが迎えに出てくる。

黒メガネA「お帰りなさいませ。今日は少し遅かったですね。」

面堂「放課後に日直の仕事があってな。」

黒メガネB「これから夕食まで何をして、お過ごしになられますか?」

黒メガネA「別荘の手配はしておきました。

      遊びに行くまでには全て完了するでしょう。」

黒メガネB「今日はやはり…自転車の特訓になさいますか?」

とりあえず僕は自転車の特訓にすることにした。

一時の恥と一生の恥のどちらかを取るかと

聞かれれば僕は一時の恥を選ぶ。

これからずっと乗れないよりかは、

出来るようになった方が良い。

黒メガネA「
若〜がんばってください!

別にいいのに、メガホンもって応援している。

黒メガネB「手を離しますよ、いいですね。」

自転車の後ろの方を持っている。

練習中、

面堂家写真撮影記録班に属する黒メガネもやって来た。

面堂「どうしてお前たちがここにいるのだ?」

黒メガネC「
いやぁ、連絡を受けまして♪。

黒メガネB「
いやぁ、知らせた方がいいかと思いまして♪。

面堂(恥ずかしいのに何で知らせたんだ。バカ!!)

あまりの事で、心の中で悪態をつく終太郎。

黒メガネC「
若、笑って〜♪こっち向いてくださ〜い!!

カメラを構えて笑顔全開で、手を振っている。

面堂
(この状況で
   どう笑顔でいろと言うのだ!!(怒)

      
あいつら全員、
     今月の給料30%カットだ!!!)


それから夕食をはさんで寝る時間が

近付くまで、

ひたすら僕は黒メガネと自転車の特訓をしていた。

手の甲とかひじとか、すり傷だらけにはなったが、

なんとなくバランスをとって

乗れるようにはなった。

面堂(あぁよかった。

   これでサイクリングに行こうと言われても大丈夫だ。)

黒メガネA「若、これで苦手がひとつ消えてよかったですね。」

黒メガネB「あぁこんなに傷だらけになって、痛くないですか?」

消毒してバンソウコを貼ってくれる。

黒メガネC「かっこいい写真が撮れて良かったです。」

面堂「どこをどう見れば、かっこいいと言うのだ。」

黒メガネC「自分の向上の為に努力している姿というのは、

      恥ずかしいことじゃないと思いますが?」

面堂(…よく真顔でそんなセリフが言える…恥ずかしいヤツ…。)

「今日はもう休む。皆、ご苦労だった。下がれ。」

バンソウコを貼った手を見る。

面堂(
…給料カット10%ぐらいにしといてやろう…

そして軽くシャワーを浴びて、ふっかふかのベッドに入った。

そして考える。

…しかし…今日は静かだった。

いつもの騒ぎある日を日常と言うなら、

静かなる今日は、非日常としか言わざるを得ない。

ラムさんの電撃。

しのぶさんの机投げ。

サクラ先生のブルーインパルスになってしまうハイキック。

ジャリテンの放火に、チェリーのどあっぷっ!!


それらが無かった今日の非日常は、

確かに良いことだが、何か物足りない。

何もそれらを見たい、体験したいと言うわけではないが、

今日は静かで、

どこか寂しかったと思うのは僕だけだろうか?

だが…まぁいい。

明日は今日よりも、

明後日(あさって)は明日よりも、もっと楽しいに違いない。

僕は友引高校へ来た。

2年4組の生徒になったのだから。







終わり。



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(※1「ですからもしもこの天の川が本当に川だと考えるなら、

その一つ一つの小さな星は

みんなその川の底の砂や砂利の粒にもあたるわけです。

またこれを大きなミルクの流れと考えるなら

もっと天の川とよく似ています。」

宮沢賢治・銀河鉄道の夜・一部抜粋編集英訳)



(※2日本の和傘。

模様が一重丸で上から見ると蛇の目のように見える模様なので

蛇の目・へびのめ、つまり蛇の目傘・じゃのめがさ・と言われます)



今回、若の友引高校編入直後〜しばらくの時期くらいの話を想像して

若の友引高校での日常や、ちょっとしたしぐさ、

心の中で思っていることをドタバタ抜きで淡々と描いて見ました。

いかがだったでしょうか?

高校の英語教科書に対してはどんな題材があるのか不明だったもので…

宮沢賢治を題材にしてみました。

和傘ほしいです。

和傘をさしてコンビニへ行ったら粋な感じがするだろうと

思うのは私だけでしょうか?(笑)



どうでもいいけど、この話の苦労話を一つ。

文章を打ち込んでいたら突然画面が暗くなり、コンピューターがblack・out。

嘘おおおおおぉぉぉ、

何でええええぇぇ???

セーブしてないのに!!!!

なんじゃこりゃあああああぁぁ!!!!


理由はコンセント側は抜けていなかったのに、

パソコン側コードが抜けていて、

今までバッテリーのみで動いていたのが、電気無くなって

データが消えたということがありました。

まぁ消えた部分は一日分データで助かったと

いえば助かった方でしたが、

「今日一日何をしたんだ」とガックリしました。(笑)


…感想あればBBSかP-BBSにでも…